――企業の寿命は30年などといわれます。産業構造がめまぐるしく変化するなか、次の100年を生き抜くために、企業には何が求められるのでしょうか。
池上 30年説がささやかれるのは、創業者が経営しているうちはいいのだけれど、2代目、3代目になると業績が悪くなることが多いことを意味しています。なぜ、代替わりするとうまくいかなくなるのか。時代の変化も要因の一つですが、実際には、この会社は何のために興されたのか、存在意義が薄れてしまっていることが多いのではないでしょうか。
迷ったときは、原点に立ち返ることです。創業者の起業時の思いを改めて調べてみるのです。そうすることで創業者の志を再発見し、今の時代でいえばこういうことだなと咀嚼できれば、2代目、3代目は身上をつぶすどころか、中興の祖になれるかもしれません。
そうしたときにも、SDGsは実に心強い存在です。今の事業がSDGsの17のゴールのうちどれに合致しているかを確かめることは、アピールポイントを探すだけでなく、現状とあるべき未来とのギャップを埋めようと奮闘した創業者の思い、企業の原点に立ち返る行為だからです。こうした作業の時間を惜しんではいけません。SDGsは、一度目先の利益を横に置いて、「礼節」について考えるチャンスを与えているのです。
――現状を確認し、未来を拓く道しるべにするということですね。創業の原点に返って、SDGsの目標と重ね合わせる作業に継続的に取り組むべきだと。
池上 そう思います。SDGsという目標が掲げられたのは、あるべき未来との間にまだまだギャップがあるからです。さらに、SDGsには2030年という“締め切り”が設けられています。そこに間に合わせるには、これまでの事業にこれまで通りに取り組んでいたのでは遅すぎる。イノベーションが求められているのです。イノベーションとは、これまでは当たり前だったものについて、本当にそうなのかと疑問を抱き、新しい常識を作るということです。
経済成長著しいフィリピンの首都マニラは今、空前の建設ラッシュ。日本企業にとっても、
SDGsとビジネスの海外展開の両立のチャンスが開けている
イノベーションが起きるまでは、それがイノベーションであることに人は気づいていません。新しい商品やサービスが生まれてから「そうそう、こういうものが欲しかったんだよ」と多くの人が感じるもの、それがイノベーションです。ですから、イノベーションはユーザーアンケートのようなところからは生まれません。「あなたはどんなイノベーションに期待していますか」といったような問いには、回答者が想像できるような答えしか返ってこないからです。
しかし、これまで一つの事業に取り組んできた専門家が、常識にとらわれることなく、「いやいや、待てよ」と、SDGsに掲げられている目標を実現するような技術や仕組みを考えたらどうでしょうか。原点に立ち返ることで、イノベーションを起こす可能性が高まるのです。そしてそのイノベーションによって、新しい事業の柱を大きく育てていけばいいのです。その場合、別の企業やNGOなどとパートナーシップを組むことは重要な選択肢といえます。実際に、大企業がベンチャーなどと組んで「オープンイノベーション」を推進するケースが非常に目立ってきましたね。「パートナーシップ」はイノベーションを加速するためのキーワードです。
さあ、SDGsを経営の中軸に据える意味が見えてきたのではないでしょうか。今日から何にどう取り組むべきか。答えはもう、みなさんの中にあるはずです。
次回、連載第3回では経済成長著しいフィリピンでSDGsの実現とビジネスの開発の
両立に奮闘する日本企業を池上彰さんがリポートします。