04 池上彰と考える『SDGs入門』 「成長の大陸」へと変わりゆくアフリカ TICAD7はSDGsビジネスを加速するチャンス

04 池上彰と考える『SDGs入門』 「成長の大陸」へと変わりゆくアフリカ TICAD7はSDGsビジネスを加速するチャンス

Twitter Facebook LinkedIn

池上彰さんに聞く

東アジアの奇跡とは、1960年代から90年代にかけての急速な経済成長を指しますが、
今、場所を変えてアフリカで奇跡が起きつつあります。
広大な土地と豊富な資源、そして何と言っても多くの若い人口を持つアフリカは、
まさに経済のラストフロンティアと言えるでしょう。

英国などかつての宗主国や、中国などからの注目度は高く、
投資が盛んに行われています。
日本のような先進国よりも先に、アフリカで最新のテクノロジーが活用される
「Leapfrog(カエル跳び)」現象もあちこちでみられます。
それらに下支えされる経済成長は、持続可能でかつ誰一人取り残さないもの、
つまり、SGDsの理念に則ったものでなくてはなりません。

そのためには、電気や水、道路などのインフラ整備だけでなく、
健康な暮らしの基盤作りや学校教育の水準向上など、
取り組まなくてはならないことがたくさんあります。

今、大企業、中小企業問わず、日本の多くの企業が様々な場面で、
JICAとともにアフリカの奇跡の実現を支援しようとしています。

2019年8月28日から30日まで、横浜で第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が開催される。アフリカは今や「成長の大陸」と呼ばれ、魅力的な市場を形成しつつある。すでに人口は12億人を超え、2050年にはその倍になるとの予想もある。「援助から投資へ」、事業の局面は大きくシフトしつつある。しかし一方で、地域紛争や貧困、さらには近年の都市化に伴うインフラ整備、産業振興、教育など、多くの社会課題が積み上がっているのもまた事実だ。国際協力機構(JICA)は、TICAD7に向け、「民間連携」を開発アプローチの中軸に据え、アフリカの課題解決、そしてSDGsの実現に取り組む日本企業を支援している。ここでは、そうした事例の一部を紹介する。

アフリカの未来を共につくる
――経済発展と社会の安定化に向けた日本の支援

アフリカの発展のため、JICAは幅広い分野で様々な事業を進めてきました。前回(2016年夏)のTICAD6で採択されたナイロビ宣言では、「Quality Africa(経済の多角化・産業化を通じた経済構造改革の促進)」、「Resilient Africa(質の高い生活のための強靭な保健システム促進)」、「Stable Africa(繁栄の共有のための社会安定化促進)」の3つを優先課題することが確認されました。JICAではそれ以前から課題解決に向けた支援を実施してきており、取り組みは多岐にわたっています。

まず「Quality Africa」では、資源やエネルギーの開発や都市開発の推進、ABEイニシアティブやカイゼン・イニシアティブを通じた産業人材の育成や生産性・付加価値向上に取り組んでいます。

品質・生産性・競争力強化のためのカイゼン
実施促進能力向上プロジェクト(エチオピア)

アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABEイニシアティブ)では、2016年からの3年間でアフリカから1200名を超える留学生を受け入れ、日本企業でのインターンシップの場もJICAが提供しています。SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」、目標9「産業と技術革新の基盤をつくる」に貢献する取り組みといえます。

2つめの「Resilient Africa」では、母子保健や感染症疾患などに配慮したユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)※や、食と栄養のアフリカ・イニシアティブ(IFNA)の推進などが挙げられます。

※ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)
すべての人が、必要とする質の高い基礎的な保健医療サービスを、負担可能な費用で利用できる状態のこと。国連の持続可能な開発目標(SDGs)においても、目標3「すべての人に健康と福祉を」の中でUHCの達成が掲げられている。

アフリカにおけるUHC推進モデル国としてケニア、セネガル、ガーナを選定し、政策改善のための財政援助や技術協力などを組み合わせて支援を行っています。2016年からの3年間で、基礎的な保健サービスにアクセスできる人数をアフリカ全体で200万人増やすのが目標。次のページで紹介しているレキオ・パワー・テクノロジー社による超音波エコー装置を活用した母子保健サービスの事例もこうした取り組みのひとつです。SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」、目標17「パートナーシップで目標を達成」を目指しています。

母子手帳を通じた母子継続ケア改善プロジェクト(ガーナ)

3つめの「Stable Africa」では、武力紛争や気候変動といった課題に対応し、社会の安定化に向けた支援を進め、治安能力強化や貧困削減、雇用創出などの支援を行っています。

例えば、2008年に立ち上げたアフリカ稲作振興のための共同体(CARD:Coalition for African Rice Development)の下、各国のコメ国家開発戦略を推進。栽培・普及、収穫後処理、流通などのバリューチェーンの構築に向け、他の開発パートナーとともに技術協力や資金協力、研究などを行ってきました。その結果、2008年からの10年間でサブサハラ・アフリカでのコメ生産をほぼ倍増できたといいます。2016年からの3年間で農民6万人および普及員2500人に稲作技術を普及する事業も実施中。これらはSDGsの目標2「飢餓をゼロに」、目標17「パートナーシップで目標を達成」に合致しています。

コメ振興プロジェクト(ウガンダ)写真:久野武志/ JICA

アフリカ各地に点在する紛争地域での平和と安定の基礎づくりにもJICAは尽力しています。テロ対策などの直接的な取り組みだけでなく、若者や女性などの職業訓練にも力を入れています。この分野ではシエラレオネやコンゴ民主共和国、コートジボワール、ジブチなどで、2016年からの3年間で5万人の職業訓練を含む960万人の人材を育成、約5 憶ドルの支援を実施。目標16「平和と公正をすべての人に」の実現に向け、着実に歩みを進めています。

沿岸警備隊能力拡充プロジェクト(ジブチ)

企業とのパートナーシップがSDGsの大きな推進力に

今年の8月に横浜で開催されるTICAD7は、アフリカの課題解決に向けた事業をさらに発展させる大きな契機になるでしょう。その鍵となるのが、民間連携。JICAと企業とのパートナーシップなのです。

アフリカは今、「Leapfrog」(カエル跳びの意。既存の技術を導入する前に最先端技術を導入して一足飛びに発展すること)する場としても注目されています。人材や制度など基盤整備が遅れている分、既存の技術をはるかにしのぐ、最先端の技術を検証するイノベーションの実験場になりうるのです。

このように言うと、アフリカビジネスで成功の果実を得られるのは大企業だけではないかと思う人がいるかもしれませんが、そうではありません。中小企業にも、アフリカにはすそ野の広い市場が開けているといえるのです。なぜなら、現地に山積する社会課題の解決に、中堅・中小企業の持つ技術や製品が役立つことが往々にしてあるからです。すでに現地で歓迎され、数億人のマーケットをにらみながら事業展開に踏み出している企業も出始めています。

次のページからは、アフリカにビジネス機会を求め、果敢にチャンレンジしている企業の取り組みを紹介していきます。

社会インフラの維持管理の“技術とこころ”を世界に発信
阪神高速道路、特殊高所技術