04 池上彰と考える『SDGs入門』 「成長の大陸」へと変わりゆくアフリカ TICAD7はSDGsビジネスを加速するチャンス

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超音波エコー検診で妊婦を安全な出産に導く
レキオ・パワー・テクノロジー

妊婦の検診に欠かせない超音波画像診断(超音波エコー)装置をアフリカで普及させようと奮闘している日本の企業があります。それは沖縄に本拠を置くレキオ・パワー・テクノロジー。同社代表取締役の河村哲さんがアフリカに注目するようになったのは、2012年に、同じ沖縄の他社がスーダンで実施したODA事業「Dr.カー(移動型診療所)の実施プロジェクト」に関わったのがきっかけでした。

「スーダンの妊産婦と新生児の死亡率は世界平均を大幅に上回ります。医師の数も非常に少なく、ところどころにヘルスセンターと呼ばれる建物があるだけ。ドクターカーでやってきた医師を初めて見て喜んでいる人もいるような現状を目の当たりにして、ここで自分にやれることは何だろうと考えるようになりました」と、河村さんは当時の思いを明かします。

スーダン政府の担当官の交代で翻弄される事業

妊婦検診に不可欠な超音波エコー装置。日本の産婦人科医院には必ずあるこの医療機器がスーダンにはほとんどありませんでした。「スーダン政府から調達依頼のあった低価格の医療機器の中で、スーダンの高い妊産婦死亡率の低下に貢献できる、ポータブルなエコーなら自分の会社で安価につくれるのではないか」と河村さんは思い立ちます。もともとエンジニア出身で、コンサルタントとして中小企業のサポートも経験してきた河村さんならではの発想でしょう。

当時、ポータブルエコーの相場は1台100万円ほど。スーダン政府から「2000ドル(約20万円)を切れば、年間2000台は購入する」という話があり、河村さんは従来の医療機器をベースに、不要な機能をそぎ落として価格を抑えた、途上国向けのポータブルエコーの開発に取り組みました。

しかし、ポータブルエコーが完成するころ、スーダン国内の選挙で高官が入れ替わり、政府が製品を購入するという話が宙に浮いてしまいます。河村さんは何とかポータブルエコーをスーダンに広めようと、今度は自らJICAの普及・実証・ビジネス化事業(中小企業支援型)に応募。無事に採択され、2015年から2018年まで、スーダンで「超音波画像診断装置を活用した母子保健の向上に関する普及・実証事業」を行いました。

スーダンでの普及・実証事業で使用した超音波エコー装置(上の写真)。パソコンにつないで使用する。途上国向けにシンプルな機能にまとめて大幅なコストダウンを実現した。パソコンに映したエコー画像(下の写真)で、胎児の心臓の動きや胎盤の位置、羊水量などをチェックできる

ハイリスクな母胎を早期に発見、多くの妊婦の命を救う

医療機器のエコーをスーダンに持ち込んでも、使える人がいなくては普及しません。そこで河村さんは、ミッドワイフ(産婆や助産師)を対象に、エコー検診技術の研修を行うことにしました。

「当初、経験は豊富でも、助産師としての正規の教育を受けていないミッドワイフには使いこなせないのではないかという懸念もありました。でも実際にはむしろ、教育を受けている若い助産師よりも多くの出産を経験しているある程度年齢の高い産婆さんの方が習熟が早く、定着率も良かったのではないかと思います。エコーで胎内の様子を見ることで、ハイリスクと呼ばれる多胎や逆子かどうかを判断し、病院で診療を受けるよう指導することができるようになりました」

エコー検診技術の研修には45名の助産師が参加した

普及・実証事業の約3年間で、約50台のエコーを使い、延べ5000人ほどの妊婦健診を実施し、効果を実証しました。最初から病院へ行くお金のある妊婦も、胎内の様子を写真に収めることができると知って、わざわざエコーのあるヘルスセンターにやってくるケースもあったそうです。

「出産前の様子を写真に撮って持ち歩くことで、愛着の形成につながり、赤ちゃんを守り育てという気持ちも芽生えるのではないでしょうか」と河村さんは母性愛を育むうえでも効果があったと感じています。

超音波エコー装置は妊婦検診以外でも幅広い検査に使用できる

今後はスーダンのみならず、ブラジルでも、JICAの民間技術普及促進事業を活用してエコー検診技術の普及を目指しています。

「JICAは中小企業を資金面でサポートすることに加えて、国際連合工業開発機関(UNIDO)といった国際機関、また、同じような医療関係の事業をしている人たちとつなぐ役割も果たしてくれます。現地でもフルサポートをしてくれて、初めて行く国では必ずJICAの事務所に連絡し、相談に乗ってもらっています」

ただ、こうしたヘルスケアへの取り組みが必要なのは、途上国に限った話ではないと、河村さんは考えています。

「エコーというと医療機器というイメージが強いかもしれませんが、日本でもポータブルエコーが身近にあって、たとえば自分の内臓脂肪を簡単に見ることができれば、健康管理への意識が高まるでしょう。自分の健康は自分で管理するというふうに常識が変わっていくのではないかと思っています」

アフリカでヘルスケア事業を展開するレキオ・パワー・テクノロジーの河村哲さん(写真中央)

アフリカのスーダンで始まった同社のSDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」の取り組み。途上国ビジネスで得た成果をもとに、先進国でも新しいビジネスの可能性が開けそうです。

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