処分で証明されたODA改善への努力

01 NOV 2000
JICA客員国際協力専門員 杉下恒夫

コメ貯蔵用施設とその関連機材を供与するエジプトへのODAで、請負業者である三菱商事が無断で計画を変更、別の機材を納入していたことがJICAの調査で明らかになり、外務省は、10月18日、三菱商事をすべての新規ODAの入札から2か月間排除することを発表した。この問題について朝日はベタ記事だったが、読売、日経、産経の各紙は、総合面や社会面にそれぞれ3〜4段見出しの記事を掲載、論評はなく発表された事実のみを報道していた。

言うまでもなくODAの契約を業者や相手国政府が勝手に変更することは、許されることではない。だが、「変更前と変更後の機材の納入額に大きな差はなく、資金が個人的に流用された形跡もない」(朝日)と各記事が認める程度の不正でもあった。今回の入札停止処分は、外務省やJICAがどのような理由があろうとも契約通りに執行されていないODAは絶対に見逃さないことを内外に示したもので、今回の発表を聞いて私にはむしろ、外務省・JICAの強い姿勢の方に強い印象が残った。

しかし、一つ心配がある。各紙の「三菱商事・外務省の無償資金援助流用・契約外の機材購入」(産経)「三菱商事を入札排除・経済協力案件・対エジプトで不正」(日経)「ODA・三菱商事、入札停止に・対エジプト機材供与・無断変更、外務省処分」(読売)「ODA契約無断変更」(朝日)といった見出しを読んだ時、読者はどのような印象を持ったのか−と考えると少し不安が残るのだ。

総じて新聞の読者には見出しだけ読んで次の欄に目を移す人の方が多い。まして、やや難解なODAの問題となると、よほど関心の深い人でないと、じっくり記事まで読んでもらえないことがほとんどだ。こうしたことを考慮すると、これらの見出しだけから今回の問題の正確な事実関係がどこまで読者に伝わったのだろうか−という疑問が起きてくる。

杞憂かもしれないが、逆に読者の中には「また、ODAの不透明な部分が露出した」という印象だけを与えたのではないか、という心配も起きてくるのだ。実はかく言う私も最初に「ODA」と「流用」「不正」という新聞の活字が目に飛び込んできた時、一瞬、同じような思いをした。

政府やJICAだけでなく民間企業を含めてODAに関わる組織全体の流れという視点から見れば、こうしたことが行われていたことは間違いなくODAの汚点だ。だから、これらの記事を読んだ人がODA全体の印象を悪化させても仕方がない一面もある。20日の夕刊フジは、この問題を突然、脈略もなく対中援助の問題に結び付け「赤字財政に悩む日本政府が国民の税金や公的資金を中国の総軍事力増強に繋がる援助に回している」(要約)とODAの再考を迫る記事を掲載した。この記事の筆者もきっと、今回の無断変更をODA全体の過失と受け止め、少々論理に無理があるが、ODA批判に結び付けたのだろう。

こうした誤解を起こさないためにも私からこの欄で改めて今回、外務省が無断変更の件を発表、厳しく処分した真意を伝えておきたい。このケースは新聞にも書かれた通り、三菱商事と計画変更を希望したエジプト政府によって一方的に引き起こされた問題であり、日本政府やJICAは、むしろ“被害者”と言って良い立場にある。JICAは、なかなか見つけにくい微少な変更を看過しなかった。そして、外務省はその調査結果を厳正に受け止め処分し、ただちにマスコミに発表したのだ。このことは、今、いかに政府、援助実施機関がODAの清廉度と透明性の向上に全力を挙げているかを示すもので、ODA批判の材料どころか、ODAが国民の納得する方向に向かっていることを示すものでもある。

マスコミ、国民もその点を良く理解すべきで、こうしたODA改善へ向けての多様な努力をさらに後押しすることが、より明解なODA実施に繋がる行為となることを知ってもらいたい。