24 JAN. 2001
JICA客員国際協力専門員 杉下恒夫
1月中旬、森首相が日本の首相としては初めてサハラ砂漠以南のアフリカ3カ国を訪問した。最初の訪問国となった南アフリカ・ミッドランドの国際会議場で9 日に行った演説では、「アフリカ問題の解決なくして21世紀の安定と繁栄はない」と語り、アフリカが抱える諸問題の解決に日本が本格的に取り組む姿勢を示したという。その後に訪問したケニア、ナイジェリアでも難民支援、貧困撲滅、感染症対策、地域紛争防止、環境保全などに対する日本の関心の深さを表明した。
日本は1980年代に入ってから継続して政府開発援助(ODA)の約10%をアフリカに投入しているほか、過去2回にわたり「アフリカ開発会議 (TICADI・II)を開催してアフリカ問題の解決に力を注いでいる。また、昨年の沖縄サミットでは感染症対策、IT格差是正の支援に音頭を取るなどアフリカに関わる問題には積極的な協力の姿勢を取り続けており、アフリカ諸国からも日本の支援に対する感謝の念は深い。今回の歴訪でも「第三回アフリカ開発会議(TICADIII)の開催を提案するなどいくつかの"おみやげ"を持参したと聞く。
今回、森首相が新世紀最初の訪問先としてサハラ以南のアフリカ諸国を選んだ理由としては「外交日程上、ほかに行く地域がなかったから」とか「アフリカ諸国は経済協力によって日本に好感を持っている国が多く、せめぎ合う外交課題もないから外交経験が少ない森首相でも大丈夫」といったネガティブな理由をあげる人も数多くいる。確かにアメリカは大統領の交代期にあり、ロシアは森首相が2月に訪問する予定があるなど訪問地を選択するのに苦労があったと推測する。その結果、2番、3番手の候補だったサハラ以南のアフリカ諸国が選ばれたのかもしれないが、私は日本の首相が新世紀最初の訪問先にサハラ以南のアフリカ諸国を選んだことはすばらしいことだと思っている。
森首相がミッドランドで演説した通り、地球の政治的、経済的不安定要因はアフリカに一番多く存在し、アフリカ問題を解決しないことには恒久的な世界の平和と安定、繁栄は成り立たない。また、先進国サイドからみてもグローバル化した21世紀経済のなかで、たとえ規模は小さくても停滞したアフリカ経済が地球上に残ることは経済全体に悪い影響を及ぼす危険があり、一日も早く解消しなければならない問題だ。今回の歴訪における森首相の各種の提案は、ほかの主要援助国があまり積極的に手を付けたがらない世界の難題の解決に日本が旗振り役を引き受けることを表明したことであり、日本の国際貢献策を世界に示す絶好のチャンスになったと思うのだ。
それにもまして今回のアフリカ歴訪を歓迎する理由は、日本が新たな世紀にもODAという日本外交最大のツールに磨きをかけ、実施してゆくことを世界に宣言することになったからだ。貧困、紛争、感染症、環境などの問題を解決するのにODAが果たす役割は極めて大きい。今後の日本のアフリカ支援が成果をあげるかどうかは、ODAがいかに効率よく実施されてゆくかにかかっているといっても過言ではないだろう。もちろん、日本のアフリカ支援には国連での票読みといった政治的側面への期待もあることは否定しない。しかし、貧困撲滅などアフリカ援助には人道的側面も強く、援助から自動的に派生してくる「人道国家日本」というイメージづくりも捨てがたい魅力になるはずだ。
だが、気掛かりなこともいくつかある。まずは、日本政府がいくら本腰を入れてアフリカ支援をしようとしても、日本には残念ながらまだ、真のアフリカ専門家が少ないということだ。アフリカ支援のポイントを概念としてとらえていても、現地事情などを詳しく理解したプログラムを策定しないと無駄な援助になることはいうまでもない。それに、いくら日本が枠組みと資金を提供しても、実際に現地で活動する人材を外国人に頼るようなことになれば、顔の見えない援助の再現になる。
もう一つの気掛かりは、森首相自身が今回のアフリカ歴訪にどこまで真剣に取り組んだのかという疑問だ。巷のうわさのように「ほかに行くところがないから…」程度の気持ちで行ったのなら、これから約束を実行するうえで欠かせない資金確保の問題にも不安が出てくる。最近与党内に強いODA予算削減論に抗しきれず、平成14年度にODA予算の大幅削減などということになれば、歴訪中、果たした多くの約束を実行することは困難になるだろう。
日本人にとってアフリカという地域は一度訪れると、すっかり惚れ込んでしまう人と、二度と行きたくないと毛嫌いする2派に必ず分かれるといわれている。森首相が前者となり、日本の協力をもっとも必要としている地域、アフリカの支援に帰国後、全力をあげてくれることを期待したい。