アメリカの落選が意味するもの

22 MAY. 2001
JICA客員国際協力専門員 杉下恒夫

5月3日に国連経済社会理事会が行った国連人権委員会の委員改選で、1947年に人権委が初会合を開いて以来、不動のメンバーだったアメリカが、はじめて落選したことは、日本の新聞でもかなり大きく報じられていた。今回、改選されたのは、任期が満了した53議席のうちの14議席についてだったが、人権委は地域ごとに議席が配分されており、アメリカが立候補した「西欧その他のグループ」枠からはフランスなどが当選、「アフリカ」の地域枠からは、人権抑圧で国際社会から大きな非難を浴びているスーダンやシェラレオネなどが当選している。

この結果にアメリカから人権状況を強く批判されている中国は「必然的結果」とし、5日付けの中国共産党機関紙、人民日報は「メンバー国が自分の人権基準を他人に押し付けるアメリカのやり方への不満を示した」(読売)と報じている。だが、スーダンなどの当選、それとアメリカの落選を歓迎する中国の反応はまったくお門違いの話で、世界の人権問題を語る場からアメリカが席を失うと、今後、どれほど実のある話し合いが可能なのか、誰もが首を傾げる事実なのだ。アメリカの人権委からの撤退は、アメリカだけの問題ではなく、世界の人権問題にとって大変、憂慮すべき事態になったと見たい。

アメリカは、その後、同じ3日に行われた同理事会の国際麻薬統制委員会の委員改選でも過去2期、10年間、委員をつとめていた委員が落選していたことが明らかになっている。この2つの選挙結果には、アメリカもさすがにショックを受けたようだ。

国連でアメリカが2つの議席を失った背景には、アメリカの事前選挙活動の不備、全米ミサイル防衛(NMD)などを巡り、最近、なにかと対立を強めている米欧間の足並みの乱れや、人権問題に厳しい対応を示すアメリカに対する開発途上国の反発などを指摘する声がある。そうした問題は、確かにアメリカ落選の主要な要因であると思う。私の視点では最大の原因は、やはり、長年にわたって国連と開発途上国を軽視し続けてきたツケを払わされたということだろう。国連の最大の分担金負担国でありながら、議会の反発で長期間、分担金の支払いを拒否している事実、途上国主導の運営にクレームをつけて脱退したユネスコ(国連科学教育機関)問題など、国際平和と安全の維持を掲げて自らがリーダーとなって引っ張ってきた国際機関や途上国に対して、近年、あまりにそっけない態度を取り続けたことに他の加盟国が愛想をつかしたというようにも見えてくる。

開発途上国に関して言えば、最近の経済協力への熱意の喪失も大きい。先日、発表されたOECD/DACの2000年のODA実績では日本に次ぐ第二位の実績額があったものの、対GNP比では0・1%とDAC加盟国中最下位、それも戦略性の高い地域ばかりに援助を集中するのでは他の途上国がアメリカ離れを起こすのも無理のないことだ。

振り返って日本のことを考えたい。日本外交の柱には国連外交と経済協力がある。これまで日本は、国連や開発途上国を重要な外交のフィールドとしてきた。国連及び多くの国連の常設・補助機関で日本はアメリカ、EUに次ぐ主要な拠出金供与国であり、苦しい国家財政の中でも分担金の滞納をしたことがない。ODAも日本は2000年実績額において断然トップで、10年連続世界一の援助国の座にある。

国内では、国連の供出額の比率に比べて発言権が少ないこと、不況の中でODA実績が他の援助国に比べて突出していることなどが問題にされることはあっても、海外から国際協力活動を推進する日本の努力への感謝の声は大きい。その証拠として最近の国連や国際機関の選挙において日本の候補者は、ほぼ全勝だ。

途上国社会に対してアメリカが採る外交政策が「北風」なら、日本が採る外交政策は「太陽」ともいえる。本当はアメリカを国際社会から締め出すことは、好ましい結果とはならないのだが、最近の国際機関の選挙ではどうも「北風」はあまり良い結果となっていない。一方、日本はアメリカを「他山の石」としてこれからも途上国に中心に世界に「太陽」を照らしつづけることが重要だ。それが長い目で見れば国益とともに,世界の人々のためにもなることに間違いないと思う。