まだまだ、厳しい日本のNGOの待遇

12 JUN. 2001
JICA客員国際協力専門員 杉下恒夫

ちょっと前の話になるが、大学の研究室に国際協力NGOセンター(旧NGO活動推進センター)から「国際協力NGO活動に携わる人材の能力開発および待遇・福利厚生に関する実態調査の報告書」と「国際協力NGOの体質強化支援策に関する調査研究」という2つのレポートが送られてきた。すぐにも読もうと思っていたのだが、当時、あいにく多忙を極め、机の一番目立つ場所に置かれたきり、1か月近くなかなかページをめくる作業にまで到達しなかった。先日、仕事も一段落してやっと読んだのだが、「待遇・福利厚生報告書」は、最近の日本のNGOスタッフの待遇など経済的実態が良くわかるレポートだった。

かつて多くの無給のボランティアによって支えられていた日本のNGOだが、今回の「待遇・福利厚生報告書」によると、調査に回答をよこした137団体のうち、約7割にあたる96団体が有給スタッフを置いているという。報告書は、NGOの財源が豊かになってきたことと、ここ数年のNGO活動に対する社会全体の認識度の高まりがこうした有給スタッフの増加に繋がっているのではないか、と分析している。

有給専従スタッフを年齢別にみると30代(208人)20代(134人)が多く、海外に勤務する有給専従スタッフ(107人)の3分の2が女性であることも興味深い。話は少しそれるが、先日、JICA青年海外協力隊の平成13年度第一次隊員候補生の派遣前訓練の講義のために二本松青年海外協力隊訓練所に行ってきたのだが、約8割が女性隊員候補生だったのに驚かされた。ODA、NGO、官民に関わりなく開発協力の世界における女性パワーの進出には本当に目を見張るものがある。最近の男性が引っ込み思案というよりも、報告書にも記してあったように、帰国後の生活設計に女性の方が余裕があることが、最近のこうした現象を起こしている原因であると、男性としては考えたいのだが、如何なものか。

報告書は、日本のNGOの年収など待遇についても細かい調査結果も掲載している。それによると、有給スタッフが増えたとはいえ、年収は、200万円から250万円という人が一番多く(111人)、次が250万円から300万円(80人)、3番目が50万円から100万円(66人)の順だ。半数以上のスタッフが150万円から400万円の間におり、150万円以下という人が4分の1を占めるという。有給スタッフが20代、30代の若手が多いこともあるが、年収は、日本人給与所得者の平均よりもかなり低い。有給スタッフの半分以上(52%)が大学を卒業しており、海外、国内での修士、博士課程修了者も加えると67%が大学以上の学歴を所持していることを勘案すると、同じ世代で、同学歴の民間企業に就職した人に比べ、年収格差がずいぶん大きいことは確かだ。

有給スタッフの就業規則や給与規定の調査をみても、給与規定も就業規則もないという団体が半数以上を占めている。労働契約、雇用契約を結んでいる有給専従スタッフもたったの2割しかいない。定期的健康診断については回答した94団体中、専従スタッフのみに実施という団体が19あったが、約65%にあたる62団体は、実施していないという。報告書を読み進んでいくうちに、日本のNGOで働く人たちの職場環境は、いまも決して恵まれていないという現実に直面する。そのことはより良い給与や職場環境を求めて転職する有給スタッフの数が多い(29人)という現実になって表れているようだ。

これからの日本の国際協力活動は政府だけではなく、国民全員が参加する国民参加型という形を採らなければならないといわれて久しい。その中でもNGOはJICAなど政府関係機関と並ぶ主役の座を期待されている。そのNGOのスタッフの待遇がこのような状況では、本当に優秀な人材がNGOに定着してくれるのか、心もとない。NGOに対する国民の理解が進んでいるとはいえ、それは亀の歩みのごとく遅い。多くのNGOスタッフが生活の心配なく、思い切り働ける環境づくりをするために、一日も早いNGO活動を支える広い市民社会の育成が重要だ。