日本人の途上国観の恐ろしさ

13 AUG. 2001
JICA客員国際協力専門員 杉下恒夫

ちょっと古い話になるが、7月はじめの日経新聞朝刊社会面に今年2月にJICAがアンケート方式で実施した日本がアジア諸国などで行っている各種の協力に関する日本人の意識調査の結果が報じられていた。

調査結果は、JICAの技術協力だけでなく民間の活動も含めた国際協力に「とても関心がある」や「まあ、ある」という関心派が回答者の55%以上に達するなど国際協力に理解を示す人が多数を占めたほか、開発途上国への協力のあり方に対する質問では「もっと積極的に」という人が24%、「多少は積極的に」という人が33.4%もおり、途上国への積極的協力推進派が6割近くになるなど不況の中でも国際協力に対する日本人の関心はまだ、決して薄れていないことを知り、多少は安心した。

が、驚いたのは途上国のイメージに関する質問への回答結果だった。途上国のことを「嫌い」または「やや嫌い」とする人が回答者の約59%、「危険」と思う人は約80%、「暗い」という人が約66%、「閉鎖的」という人も約60%いた。こういうイメージだから当然、「(途上国に)行ってみたい」という人より「行ってみたくない」という人の数の方が多く、約65%が「行きたくない」と回答していた。この結果について、明石康元国連事務次長は「国際協力は賛成でも途上国はイヤだというのは、非常にねじれた発想。日本は世界と付き合わなければ生きていけない国で、途上国を避けるわけにはいかない。これらの地域(途上国)との関係のあり方をより多くの人が積極的に考えるべきだ」と同紙にコメントしていた。

世界には途上国は150か国以上もあり、アンケートの回答者たちが、どの途上国をイメージして答えたのかは不明だが、日本人の多くが途上国に対してどうしてこれほど悪い印象を持っているのだろうか。確かに日本のマスメディアで伝えられる途上国関係のニュースといえば政治、経済の混乱、貧困、環境破壊、難民、自然災害など明るいニュースはあまりない。それぞれの途上国が持つ素晴らしい伝統文化などについての報道はめったになく、テレビなどでは好奇心をそそる風変わりな風習のみに焦点を当てたストーリーを作り、かえって視聴者の誤解を生む番組も目立つ。だから、多くの日本人が途上国に対してネガティブなイメージを持つのは仕方がないことなのかもしれない。こうした日本人の誤った途上国観が、途上国から帰国した日本人児童へのいじめなど陰湿な日本の学校の雰囲気に繋がっているのだろうか。

私はさいわい時おり、途上国に行く機会があり、途上国の良さを知る人間の一人と思っている。そうした人間から見ると、この調査結果はあまりにも残念だ。途上国は日本に比べて「危険」であるかもしれないが、「暗い」とか「閉鎖的」とは到底、思えない。途上国は概して暖かいところにあるから太陽の光があふれるほど降り注いでいる国が多いし、南国の人は貧しくとも陽気な人が多いので、むしろ途上国というと「明るい」というイメージを持っている。それに「閉鎖的」というなら、昨今の迷走する日本のほうがよほど閉鎖的ではないかと考えてしまう。

日本で生活している時よりも多少の緊張感を保つ必要はあるが、海外経験のない人にとっても途上国はそれほど「危険で、暗くて、閉鎖的」な国々ではないはずだ。食わず嫌いをせずに日本人がもっともっと途上国に足を運び、人々の笑顔に接すれば、日本人の途上国に対する偏見は一掃されるだろう。

われわれ日本人は途上国からの大量の天然資源の供給を受けるなど、途上国に守られて生きていることを自覚、途上国の真の姿を知る努力をしなければ、いつか相手から愛想をつかされてしまう日がくる。その日が怖い。