私がセブで始めたミニコミ紙発行事業から (1)

vol.35 04 OCT. 2001
JICA客員国際協力専門員 杉下恒夫

私がセブで始めたミニコミ紙発行事業から (1)
大学の夏季休業を利用して今年の夏は、フィリピンのセブに10日間ほど行ってきた。今年、セブに行くのは二回目で、年内にもう一度、行く予定を立てている。

頻繁にセブに足を運ぶからといって、青い海と美しいビーチに魅了されているわけではない。私の行く先は、普通の日本人が"セブ"だと思っている美しいリゾート点在するマクタン島ではなく、そこから海峡を越えたセブ本島のフィリピン第三の都市、セブ市だ。同市もフィリピン最古の街ということで、スペイン領時代の城壁など観光資源があるが、雑然としており、正直に言って私にはそれほど魅力がある街には見えない。しかしながら、私がこの街にたびたび行く理由は、JICAが同島北部で実施中のプロジェクト方式技術協力「セブ州地方部活性化プロジェクト(CEBU SEED)」の一端として、地元の人々に州政府の行政ニュース、それにJICAニュースなどを提供するミニコミ紙を発行する小さなプロジェクトを担当しているからだ。

CEBU SEEDというプロジェクトは、セブ州の中でもさらに貧しいとされる島の北部の開発を核にしたもので、小規模な上水道施設、市場の浄化装置、間伐材を活用した練炭づくり、住民参加型の村落開発など多様な草の根的ODA事業を平面的に幅広く展開しており、JICA専門家たちの知恵と、地元民の協力が完全に溶け合ったJICAの中でもユニークなプロジェクトの一つといえる。

私がミニコミ紙発行を思い立ったのは、昨年の沖縄サミットの時だった。サミット首脳間で情報格差(デジタル・ディバイド)是正のためにIT分野の開発協力が語られるたびに、その前に何かやり残していることがあるような気がしてならなかった。「IT協力といっても情報格差の是正を真剣に求めている国は、高度技術を受け入れる基盤を持つほんの一部の卒業近い国だけで、ほとんどの途上国には先端技術(T=テクノロジー)に対する協力よりも、もっと前の情報(I=インフォメーション)というものの大切さを知らせる必要があるのではないか」という思いだ。

例えばある途上国の村で幼児に無料で三種混合ワクチンが接種されることになったとしても、それを知らない母親がいたら、そうした行政サービスを受けられず、自分の子どもをポリオ感染などの恐怖に晒すことになる。一般に途上国の人は情報に接する機会が少ないせいか、情報を持つことの重要性を十分に理解していない傾向がある。情報が子どもの健康を守り、自然災害から家族を守り、ある場面では仕事や生活向上にも結びつくことを知れば、途上国の人も情報に敏感になり、もっと詳しい情報を得たいと思うようになるはずだ。IT協力は途上国の人たちが自らそう思うようになってからで良い。そこで、われわれはどのような協力をすれば良いのか—。ない知恵を絞って考えた末に思いついたアイデアがミニコミ紙の発行だった。少なくとも行政が行なう住民サービスだけは公平に住民に広報する。その手段は日本の地方自治体などが毎月発行している「市のお知らせ」的な広報紙を作ることだ。このアイデアをJICAに持ち込んでJICA本部の担当者らの知恵を借りながら実現したのが、セブでの州政府のミニコミ紙発行事業だったのだ。

セブを選んだ理由は比較的英語が通じる地域であること。SEEDという地域全体の開発を手がけているプロジェクトがあったこと。セブ北部がフィリピンの中でも開発が遅れており、情報に接する機械が少ない地域であったことなどからだ。

スペースがないので次回、これまでの私のプロジェクトの進捗状況を報告する。