06年度は内政の年度か?

vol.140 11 April 2006
JICA客員国際協力専門員 杉下恒夫

新聞記者時代は生活の中であまり意識しなかったが、大学に籍を移してからは新年度という言葉に重みを感じるようになってきた。年度とは会計年度であり、大学も予算に基づき運営されている組織だから、4月1日は新年度、新学期として、これまでの業務を更新、また新たなチャレンジのスタートラインにもなる。

とはいえ、主要先進国の中で4月1日が新年度という国は意外に少ない。4月1日から新会計年度という国は、イギリス、カナダなど数カ国。アメリカの会計年度は10月1日からだし、ドイツ、フランス、イタリアなどは暦年に合わせて1月1日が新会計年度のスタートだ。JICAのように世界各国を相手に仕事をしている組織となると、日本の会計年度だけに照準を合わせて仕事することは出来ないだろうが、いずれにしてもJICAも新しい予算のもとで新たな仕事が始まった。

そうしたフレッシュな気持ちで4月1日の世界情勢を見渡したのだが、気になる共通項が見えた。それは主要援助国の多くが今後、一筋縄では収まりそうにない長期化しそうな内政問題を抱え込んでいることだ。

3月下旬から4月上旬にかけて、世界のマスコミの関心を集めたニュースの一つは、フランスの若者雇用促進政策「初期雇用契約(CPE)」を巡る労組、学生と政府の対立だ。3月28日には仏全土で300万人が参加する大規模なストライキが実施された。若年層の雇用促進を目的に提案されたCPEではあるが、26歳以下の若者を雇用した場合、2年間は理由なく解雇できるという原案はいささか乱暴にも見えた。シラク大統領は期間を1年に短縮、解雇理由の開示などCPEの一部修正で事態を乗り切る構えだが、若年層の不安解消には時間がかかりそうで、次期大統領選も視野に入れながら、仏国内の混乱はしばらく続くだろう。

アメリカも不法移民規制法案に反発するヒスパニック系の人たちの抗議デモが続いている。3月25日、ロスアンゼルスで50万人が参加するデモが行われたほか、デモは各地に広がる勢いだ。世界中からの移民によって作り上げられてきたアメリカという移民国家が1000万人を超えるメキシコなどからの不法な移民にどう対処するか、今秋には中間選挙を控えているだけにブッシュ政権もうかつな対応は出来ない。

イギリスも3月28日に年金改革に反発する学校教師、消防署員など約150万人の地方公共団体職員が1926年以来という大規模ストライキを強行した。政府が進める年金改革は、結果的に年金削減に繋がるだけに、国民にとっては死活問題だが、政府も深刻な財源不足にあり、妥協点は簡単に見つかりそうにない。ブレア政権の存続も楽観できない。イタリアも4月9、10日の総選挙に向けてベルルスコーニ首相の中道右派と、勢いを増している中道左派の激しい選挙戦が続いている。政権交代ともなれば、外交政策などに大きなゆれ戻しがあるだろう。

日本も景気は回復基調にあるものの、今国会では行政改革推進法案など日本の中期的な将来を左右する重要法案が審議され、ポスト小泉や来年の参院選を巡る政局も波乱含みだ。

2001年の911・ニューヨーク同時多発テロ事件以来、主要援助国の国民の関心は、どちらかというとアフガニスタン、イラク、パレスチナ、イランなどテロリズムという括りで論じられる国際情勢に傾いていた。だが、長らく目や耳を海外にやっているうちに、足元に自分たちの生活基盤を脅かす伝統的な内政問題が放置されていることに気づき、政府、国民とも内政に関心が戻りつつあるというところだろう。

主要援助国の軸足が内政に傾く国際社会の中で危惧されるのは、政府、国民の開発途上国への関心が薄れ、80年代のような援助離れ現象が再び起きることだ。外交と内政は一見、別の政策のようでいて、実は密接に繋がっている。それだけに、新年度早々の世界情勢は、開発援助の世界においてあまり好ましくない。

昨年以来、日本以外のDAC加盟国内の潮流となっているODA増額の方針を変えてはならない。この好ましい流れを変えないためにも開発援助に携わる政府・援助関係機関は、自国の内政問題を念頭に、内政とバランスのとれた援助政策の実施を心がけることが重要だ。