2005年の日本のODA実績は本当に増えたのか?

vol.141 25 April 2006
JICA客員国際協力専門員 杉下恒夫

4月はじめにOECD/DAC(開発援助委員会)が加盟22か国の2005年ODA実績(暫定値)を公表した。それによると、日本のODA実績は、前年を41.8億ドル(46.8%)も上回る131億ドルで、5年連続アメリカに次ぐ世界2位のODA実施国の座を守った。円借款の回収額を差し引かないグロス値では約186億ドルで前年実績を14.9%上回っている。

2005年はポルトガルを除く加盟国が揃って援助額を増やしており、DAC全体のでは、前年実績額(795.5億ドル)を269億ドルをも上回る過去最大の1064.8億ドル(33.8%増)という巨大な額を記録した。世界一の援助国は昨年同様、前年より77.5億ドル(39.3%)も増やして総額274.6億ドルの援助をしたアメリカ。日本のあとにはイギリス(107.5億ドル、前年比36.4%増)、フランス(100.6億ドル、同18.7%増)、ドイツ(99.2億ドル、同31.6%増)などが続いた。

ご承知のように日本のODA予算は98年度から急激な削減傾向が続いている。2005年度のODA当初予算も前年比で3.8%削減され、ODA予算は最盛期(97年度)の3分の2程度にまで減っていただけに「2005年実績は世界で4番目ぐらいに下がるだろう」と多くの人が予測していた。それがまだ2位だったというのも驚きだが、もっと驚いたのは実績額が2004年よりも41.8億ドルも増えたということだ。

日本のODAに多少の関心を持ってウオッチしている人は、この数字に「国民の目か届かない場所でODA予算に何か細工がされたのか?」といぶかる人もいたに違いない。予想外の増額の背景をタネ明かしすると、この増額分はほとんどがイラクなどへの債務削減だ。債務削減は過去に貸した資金が焦げ付き、救済のために持っている債権を放棄することだから、新たな財源を計上する必要はない。言い換えれば、新たな予算措置をしなくても過去の資金でODA予算が増額する仕組みだ。

イラクへの債務削減は32.2億ドル、他の債務国に対する債権放棄額を含めると2005年の債務削減額は計35.5億ドルになる。こうした債務削減のほか、インド洋津波被害支援(5億4千万ドル)があり、この2つが日本のODA実績を10年ぶりに100億ドルの大台を超えさせ、80年代以来の高い伸び率を招いたのだ。

内容はともあれ2005年のDAC実績で日本にとって良かったことは、国際社会に日本がまだODAに力を入れていることを示せたことだろう。特に日本のODAの泣き所でもあった対GNI比は、2004年の0.19%(21位)から0.28%(17位)に上昇、昨年のグレンイーグルス.サミットなどで小泉総理が何度も約束していたODA増額もなんとか果たせたというところだ。

他方、好ましい数値とはいえない部分も多い。イラクへの復興支援も、インド洋津被害の救援も、ともに価値ある国際協力策であり、無駄なODAとは言わないが、従来の開発援助の概念の延長線上で見ると、この増額分は“真水”とは認めがたい。援助を受ける国の国民にとって債務削減や災害地の復興支援は、いわば普通の状態よりマイナスだったのを、国際支援によってプラマイゼロになっただけのことで、生活が元の状態近くに戻っただけだ。海外からの援助によって少しでも市民の生活環境を向上するというODA本来の目的とは異なる支援策なのだ。

私は今回の名目だけのODA増額という事実が一人歩きして、国民が日本のODAは増えているという間違った認識を持つことを心配する。そのためにも、関係機関はイラクなどへの債務削減と緊急のインド洋津波被害支援額を差し引くと、日本のODAは前年実績とほぼ変わらず、相変わらず右肩下がりの傾向にあるという現実を正確に知らせる必要がある。さらに、財務当局には債務削減によるODAの増額というマジックを、今後はあまり弄ばないようにお願いしたい。