援助の世界でも台頭する中国、インド

vol.144 9 June 2006
JICA客員国際協力専門員 杉下恒夫

5月29,30の両日、東京・三田共用会議所で開かれた財務省、世界銀行共催の「世界銀行 開発経済に関する年次会合(ABCDE会合)」を覗いてみた。

世銀のウォルフォウィッツ総裁が就任以来、二度目の来日をしたほか、OECD/DACのマニング議長、黒田アジア開発銀行(ADB)総裁、カベルカ・アフリカ開発銀行(AfDB)総裁、コロンビア大学のノーベル経済学賞受賞者、スティグリッツ教授ら海外からの出席者のほか、日本からも谷垣財務相、緒方JICA理事長らが講演者などとして参加、100か国以上から集まった開発関連機関職員、研究者、NGO、国連、政府関係者らが開発問題について熱心な討議、意見交換を行なった。

世界の開発援助の多様な関係者が年に一度、一堂に会するという滅多にない大会議のせいか、会場では一部で多少お祭り的な浮いたムードも感じられたが、貴重な問題提起も各所で行われ、総合的には意義ある会議だったように思う。

今年のテーマは「開発のための新たなインフラについて」。私一人ですべての分科会を聞くわけにはいかなかったから、参加したセッションの範囲内での印象になるが、興味深かった意見の一つは、カベルカAfDB総裁のものだった。同総裁は「開発に普遍的な道はない。アフリカではガバナンスの問題が解決していないからといって成長の基本であるインフラに対処してはいけないという一部の論理はおかしい」と疑問を投げかけた。

いつものことではあるが、今回のABCDE会合でも欧米流の開発論理と、途上国の論理の不協和音が各所で聞こえていた。特に収賄や汚職といった腐敗への対応に対する温度差はますます広がっているように思う。

もちろん、途上国側も腐敗を容認しろと言っているわけではない。だが、カベルカ総裁が言うようにガバナンスの問題も前提条件の一つだが、それが解決していないからといってインフラ整備に着手してはいけないという論理を押し通すと、いつまでたっても開発が進行しない。経済インフラ整備とガバナンスの改善を同時並行的に進める柔軟な考え方でないと、後発開発国はますます遅れをとり、加速するグローバル化の中で取り返しのつかないほどの格差が生じてしまうだろう。

今回のABCDE会合のもう一つの特色は、中国とインドの存在感が大きかったことだ。国際経済で勢力をもたげつつある両国は、これまでは脇役だった開発援助の世界においても主役の座に近づいているという印象だ。パネル・セッションには「中国とインドの成長見通しとその影響」「中国とインドが途上国に与える影響」「中国における組織化された民間セクターの台頭」などがあり、いずれの会場も参加者で溢れていた。

現在は被援助国に属する両国だが、合わせて世界の3分の1以上の人口を有し、急速な経済成長過程にある二つの国が今後、開発援助の世界においても大きな影響を及ぼすことは必至だ。ABCDE会合参加者がアメリカや日本、世銀などの既存の大ドナーよりも、これからの主要なドナーとなりうる両国に関心を持ったことも当然と言える。

ただし、中国、インドが主要なドナーとなった時、現在のOECD/DACの援助理念を丸呑みする可能性は少ないだろう。欧米型援助理念にアジア型援助理念を加味した独自の援助政策を展開すると思われる。日本も70年代後半から台頭したいわば新参の援助国であり、長らく欧米型援助理念のとの軋轢に悩まされてきた国だった。だからといって中国、インドの援助理念を共有できるとは思えないが、同じアジアの援助国として欧米主要援助国とは異なる協調政策を実現することは日本のODAに新たな活力を生む期待が持てる。今から中国、インドとの援助協調の道を模索しておくことが重要だ。