ODAと武器輸出3原則

vol.147 28 July 2006
JICA客員国際協力専門員 杉下恒夫

マラッカ海峡のテロ・海賊対策強化手段の一環として日本の無償資金協力により供与される巡視艇3隻が2008年前半にはインドネシア側に引き渡されるという。

巡視艇供与を巡っては、今年6月の署名式が延期されたことなどでいろいろな憶測が流れた。一部のマスコミで報じられた延期の理由は、用途をテロ・海賊行為の取締りに限定するという供与条件にインドネシア側が難色を示したなどとされていたが、事実はインドネシア側の単純な事務処理の行き違いが原因だったようだ。

3年前にこの話がインドネシア側から持ち込まれた時、問題とされたのは日本の海上保安庁が所有する小型巡視艇の中でも最速クラスに属する約30ノットの速度を有し、機銃は取り除いてはいるものの、艦橋には防弾ガラスが装備され、全体の装甲も分厚い舟艇の供与が武器輸出3原則に抵触しないかということだった。

日本には1967年の佐藤内閣当時に1.共産圏諸国2.国連決議で武器輸出が禁止されている国3.国際紛争の当事国やそのおそれがある国向けの武器輸出を禁止する武器輸出3原則が制定された。この3原則は76年の三木内閣時代にさらに強化され、3原則以外の地域にも武器輸出を慎む、武器製造関連設備の輸出も武器に準じて取り扱うという政府の統一見解が定められ、官房長官談話を出して例外化するケース以外は事実上どこの国にも武器製造に結びつく可能性がある製品を輸出できないことになった。武器関連の定義も厳しく、防弾ガラス付きの車、防弾チョッキ、底部に装甲が装備された四輪駆動車なども武器とされる。

過去の官房長官談話が出されて輸出された例外化のケースとしては対人地雷除去活動に伴う武器の輸出(97年)、中国遺棄化学兵器処理活動に伴う武器輸出(2000年)など9例しかない。今回のインドネシアに対する巡視艇供与は、04年12月に出された「テロや海賊対策は例外として検討する」という官房長官談話に基づくもので、ODAの無償資金協力を使った例外輸出措置としても初めてのケースだ。

マラッカ海峡は一日200隻以上の船舶が通過する世界でも有数の混雑海峡で、日本が関係する船舶の9割はこの海峡を通過する。それと同時に海賊の多い海峡でもあり、05年に世界で発生した海賊事件276件の半分に近い122件(いずれも国際海事局データより)がマラッカ海峡周辺で起きているという危険な海域だ。

インドネシアへの巡視艇の供与によってもともと船艇の数が少ないうえ、現在、所有する巡視艇も老朽化、穴だらけだったインドネシアの海賊取締り体制は強化され、マラッカ海峡全域のパトロールが常時、可能になるという。武器輸出3原則に触れる可能性もある今回の巡視艇供与にODAを使うことに異論を唱える人も一部にいるようだが、マラッカ海峡のパトロール強化は、日本のライフラインの維持強化に繋がるだけに、むしろ大いに歓迎すべき事例だ。

ODA大綱に記してある日本のODAの最初の目的は「国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資する」だ。巡視艇供与はまさにこの目的に合致する。今後、日本のODAはテロや海賊対策として活用されることが多くなってくるだろう。その際、武器輸出3原則の問題が出ることも予測されるが、従来の杓子定規な解釈は避け、何が国際社会および日本の平和と安全に寄与するかを考慮して決定を下すことが肝要だ。

今後のODAは急速に変化する世界情勢を正確に把握して、即応しなければ求められている効率的な実施はおぼつかない。武器輸出3原則のように冷戦時代の尾を引きずるいささか時代遅れの思考法を一掃することもODA活用の幅を広げ、効率的活用に繋がるのではないだろうか。