目を見張る主要援助国のODA予算増


vol.149 8 August 2006
JICA客員国際協力専門員 杉下恒夫

7月21日、来年度予算概算要求基準(シーリング)が閣議了解されたが、その直前、私の古巣である読売新聞「論点」欄に来年度ODA予算に関する記事を掲載した。

過去10年近く、ODA予算が止め処なく削減される現実を憂える内容の記事だったが、拙文のせいか掲載後の周辺の反響はそれほど大きなものではなかった。そんな残念な結果だったのだが、一か所だけ多くの方に賛同の意を表して頂いた主張があった。それは「ODA予算の削減は国際的公約違反の恐れがある」というくだりだ。そこで、本欄でもう一度この部分に焦点を当てて詳述したい。

昨年一年間を振り返ると、日本政府は多くの国際会議の場で、ODAの国際公約といえる新たな方針を表明してきた。4月の「アジア・アフリカ首脳会議」では小泉首相が「今後3年間で無償資金協力を中心に対アフリカODAを倍増する」と述べたほか、「アジア・アフリカ地域を中心に防災・災害復興対策として5年間、25億ドルの支援をする」とも公約している。続く7月の「主要国首脳会議(グレンイーグルズ・サミット)」でも「今後5年でODA事業を2004年実績から100億ドル積み増す」ことを公表した。

それだけではない。「保健分野のミレニアム開発目標(MDGs)達成のため、感染症対策などに5年間50億ドル以上を目指す協力の実施(5月、保健と開発に関するイニシアティブ)」「世界エイズ・結核・マラリア対策基金への供出金5億ドルの増額(6月、世界基金構想5周年)」「貿易・生産・インフラ・流通関連分野で今後3年間計100億ドルの資金協力(12月、WTO香港閣僚会議)」などの話もある。いったいODA予算をいくら増やせば約束を果たせるのかと、かえってこちらが心配してしまうほどの大盤振る舞いだ。

だが、先日、閣議了解された現実のODA予算は2007年度も前年度比3%減というシーリングだった。2005年のOECD/DACの実績額で日本のODAが急増した手法、つまり債務放棄などによって実績額を増加するという手を使えば、数字上いくつかの国際公約は実施可能かもしれない。しかし、ネットで実現する可能性はゼロだ。

諸外国からの信頼と良好な関係を構築することが最大の責務であるODAにおいて、国際社会との約束を遵守する事は至上の課題だ。それを破れば国際問題に至る可能性もあるのだが、昨年から今年中旬にかけての政府の流れは、言行が一致しておらず国際問題に発展する危険すら帯びている。

では、どうすれば約束を履行できるのか。今のように政府がODA予算を他の国内関連事業予算と同列に認識している限り、今後もODA予算の削減が続くことは避けられない。国際社会の中で多大の責務を負う日本のODAの特殊性をわれわれがいくら声を大にして叫んでも、予算編成担当者たちの国内財政優先の意思は固く、今のところ耳を貸す気配はない。あとは根気よく説得を続けるしか方法はないだろう。

ひとつだけ、今すぐにも財政担当者たちに知っておいてもらいたいことがある。それは最近の主要援助国のODA動向だ。

最大の援助国アメリカは2005年に2000年を約175億ドルも上回る275億ドルのODAを実施しているが、今後も少なくとも2009年まで年間240億ドルレベルのODAの実施を約束している。フランスは2007年にODAの対GNP比0・5%にまで引き上げ、さらに2012年までに0・7%の実現を目指す。イギリスも2013年までに、ドイツも2015年までに0・7%実現を掲げ、カナダは2010年までODA予算を毎年8%増額して2010年までには2001年実績の倍増を目指すという。

なぜ、これらの国が援助額を増やそうとしているのか。それはそれぞれの国が地球上の不公平な富の分配が、世界のどこかでつねに発生している悲劇の一因であることを認め、その是正を重要政策としているからだ。日本の財政当局がこの各国の政策変化の理由を正しく理解した時、ODA予算の削減もやっと止まるのではないかと思う。