途上国のメディア調査印象記 II

vol.154 13 December 2006
JICA客員国際協力専門員 杉下恒夫

 
アジア、アフリカのメディア事情調査の結果報告として是非、報告しておきたいことは、従来、日本のODAが足を踏み込むことにあまり積極的ではなかった途上国のメディア支援に、アメリカや中国など国際政治の主役たちが明らかな政治的な意図を持って、実施している現実だ。

06年9月に訪れたタンザニアでは、現地での仕事に多大なご支援を頂いたJICAタンザニア事務所の高橋直樹次長が「最近、ダルエスサラームの市内に建てられた公共施設の中で、目立つものはたいてい中国の援助ですよ」と呆れ顔で教えてくれたが、ハコモノばかりかメディアの分野でも中国の援助攻勢は活発だった。

当地でインタビューした政府系公共放送「TBS」の編集担当部長たちは口を揃えて「中国のCCTVは中国を中心としたアジアニュースを数多く提供してくれており、われわれは大いに感謝している」と語る一方で「日本のNHKからもドラマや音楽番組の提供を受けている」と同様の謝意を示してくれた。だが、援助を活用した外交という観点から見れば、この日本流の政治色を排除したメディア協力はいかにも頼りない。

ナイジェリアではもっと驚く話を聞いた。ナイジェリア・ジャーナリスト組合(NUJ)の委員長に聞いたところでは、NUJは中国ジャーナリスト協会(CJA)と協力関係にあり、ジャーナリストの訓練などの記者交換事業を行っているという。中国の言論が厳しく規制されていることは、誰もが知るところだが、そんな国に行ってどうやって言論の自由を大前提とするマスコミの訓練をするのか、首を傾げたくなるようなメディア協力も行われているのだ。もっとも、NUJはキューバとも記者交換プログラムを実施しているというから、目的は別のところにあるかも知れない。

途上国へのメディア協力に熱心だったのは中国だけではない。戦後、一貫して民主主義の推進にメディアの影響力を重視しているアメリカは、旧ソ連邦から独立した諸国や、軍事政権以後の民主化を目指す国々のメディア支援に力を入れている。私が昨年、訪れたキルギスではジャーナリストの育成のほか、アメリカが認める編集方針を持つ新聞社の経営にまで手を貸していた。

アフリカでもアメリカのメディア支援は活発で、タンザニアでは大使館が国際開発庁(USAID)や、文化情報局(USIS)などと協力してラジオ、新聞、テレビなどメディアとの協力事業を実施していた。90年代後半に世界に先駆けてジャーナリストの取材活動を支援するタンザニア・インフォメーション・センターを各主要都市に設立したほか、タンザニアのメディアにあらゆる情報を提供、意見を交換するプログラムのほか、多くのジャーナリストをワシントンに招いて記者研修などの事業を行っていた。

イギリスもアジア、アフリカでのメディア支援に力を入れている。イギリスの国際開発省(DFID)は、途上国のガバナンス支援策としてメディアの役割と育成を明確にした「メディア・イン・ガバナンス」を発行しており、特に旧植民地諸国でのメディアの支援に熱心だった。北欧諸国もジャーナリストの育成事業など多くのメディア支援プロジェクトを行っていた。

2年にわたり6つの途上国のメディア事情を調査して、日本のODAに一番感じたことは歯がゆさだ。たしかにどのような形でも相手国のメディアに介入することは、内政干渉になる危険がある。だが、今、日本のODAの主要目的の一つにガバナンス支援を挙げているなら、もう一歩踏み込んだメディア支援策を講じないと、援助効果は薄い。

さらに踏み込んで安部総理がODAの外交的戦略性を重視するというなら、情報戦の最大のツールである現地メディアにもっと深く関わらないと、各地での影響力を競うライバルたちに負けることは必至だ。他の国々が堂々とメディア支援を実施しているのを目撃して、日本ももう“石橋”を渡っても良い時期に来ていることを確信を持って提言したい。