団塊パワーの獲得競争に参加を

vol.158  15 January 2007
JICA客員国際協力専門員 杉下恒夫

今年から私が勤務する大学がある茨城県の県紙「茨城新聞」の紙面批評を仰せつかったので、正月から毎日、神奈川県鎌倉市のわが家に、一日遅れの新聞が郵送されている。

同紙の元日の一面トップ記事は、今年から始まる団塊の世代の定年退職にともない、地域社会に戻ってくる人たちの能力と、退職金など265兆円といわれる団塊マネーが、地域を活性化する起爆剤になるとともに、地域間の獲得競争も厳しくなるだろうというものだった。

約700万とされる団塊世代が第一線を退くことで起きる、いわゆる2007年問題については、これまでも全国紙などでたびたび論議されてきた。だが、全国紙は本拠を東京においているせいか、急増する年金、医療費、介護費など社会保障制度の問題や、企業において彼らが持つ経験や技術の継承問題など、政府や企業サイドから見たものが多かったように思う。

「茨城新聞」の記事を読んで面白いと感じたのは、退職して故郷に戻ってくる団塊の世代を、受け入れる側の視点で書かれていることだ。2007年問題は、東京などではどちらかというと、ネガティブに捉えられることが多いが、地方では人材や預貯金が戻ってくるというポジティブな考え方も多い。

いろいろな調査によると、団塊の世代の約5割は、60歳以後もまだ働きたいと思っており、定年を60歳以上に引き揚げる企業も増えている。だから、今年すぐに地方の思惑通りに団塊の世代の動きが、地方活性化の起爆剤になるかはわからない。しかし、多少の時差はあっても、近いうちに団塊パワーは生活スタイルの大変動を開始するだろう。

団塊の世代の大量退職を、むしろチャンスと捉える地方の考え方にふれて、開発協力の世界には、この地殻変動がどのような影響を及ぼすのかということを考えた。先日の読売新聞の世論調査では、退職後に地域のボランティア活動に参加したいと思っている人は6割以上いるとされる。こうしたデータから、団塊パワーが国内の地域活動に重点を置く団体にとって貴重な新戦力になることは間違いない。

しかし、ボランティアの延長線上にあるとはいっても、開発途上国での国際協力活動においてもこの人たちが即戦力になるのか、というと簡単には頷けないこともある。開発協力の世界では、彼らが若い頃から馴染んだビジネスとは違う知識、技術を必要とし、働く生活環境も一段と厳しく、気力ばかりか体力も必要とする。退職後の余暇の過ごし場所という安易な動機では、とても務まらない仕事だ。

もちろん、すでにJICAのシニア海外ボランティア(SV)には、40歳から69歳までの多様な人材が参加して世界各地で活躍している。1977年に発足した伝統あるNGOである日本シルバーボランティアズ(JSV)も、40歳以上の人材の入会が絶えることなく、立派な活動を続けている。その他のいくつかのNGOにも、シルバー世代ながら現地で活躍している人も多いが、こうした人はまだ少数派だ。

だが、多くの課題があるとしても、われわれ開発協力に関係するものが団塊の世代の大移動を、対岸から見ているのは、いかにももったいない。団塊の世代は、ちょうど日本の国際化に歩調を合わせて生きてきた世代であり、語学力、国際経験、国際人脈などが豊かな人材も多く、海外を主舞台とするNGOなどに相応しい人材の宝庫でもある。

たとえ開発協力は彼らに未知の世界であっても、国際協力の素人集団ではない。ちょっとした意識改革で、たちまち重要な戦力になることは間違いない。地方や企業間の団塊パワーの獲得競争に手をこまねいていないで、われわれも多くの団塊の世代に、開発協力の素晴らしさを知ってもらい、彼らの関心を開発協力に引き付け、参加してもらう努力を怠ってはならない。NGOをはじめとする開発に携わる人たちは、団塊パワー獲得競争に積極的に加わるべきだ。