タンザニア大統領の本意は?

vol.160  2 February 2007
JICA客員国際協力専門員 杉下恒夫

1月29日付けの日経新聞朝刊に掲載されたタンザニアのキクウェテ大統領のインタビュー記事にはびっくりした。

「インタビュー 領空侵犯」と名づけられたこの企画は、タイトルからも想像がつくように、政治、経済、社会などさまざまな問題を、それぞれ違う分野の人たちにインタビューして、専門家とはひと味違う提言を引き出そうというものだ。落語家の桂文珍さんに地方空港の問題を語らせたり、JR東日本の松田昌士相談役に外交問題を聞いたりして、興味深い話を引き出している。

29日のインタビューはここ数年、GDP成長率が7%前後で推移し、治安も良くなり観光収入などが増えていることから、アフリカの優等生とされるタンザニアの大統領に財政など日本経済の問題点を尋ねたものだ。

最初の質問で日本の財政赤字を減らす妙案を聞いたのだが、大統領はいきなり「無駄な支出を減らす策としてODAの再編を考えてはどうか」、「途上国に資金をばらまくのでなく、もっと効果的に使えるはず」と提案したのだ。その後の話を要約すれば「資源国にはODAを提供したいという国が列をなしており、ばらまきODAは談合や汚職の温床となる」「極言すれば、私たちは無償ODAは要らない」「欲しいのは企業の元気な活動であり、民間投資こそが経済の活性化を生む」といった話が続いた。

ODA以外の経済問題についても、自国の経済改革がいかに順調に進んでいるかを誇り、日本は市場開拓のフロンティア精神が衰えていないか、と叱咤激励してくれている。日本経済全般に対する指摘は当たらずとも遠からずだが、特にあがめ祭って拝聴するほどの斬新な意見でもない。

だが、「無償ODAはもういらない」とまで言った経済援助に関しては、自国の実情を把握して本心で話しているとはとても思えない。マクロ経済指標が改善・安定化してきたとはいえ、今も日本やイギリス、北欧諸国の貧困削減財政支援資金(PRBS)などが一般会計に現金で組み入れられている援助漬けの国だ。それに加え、日本からは債務を実質的に放棄する債務救済無償や、ノンプロ無償本体資金などが供与され、それによってやりくりしているのが実態だ。一般会計に援助資金が入ることで、イギリスなどによる政策介入も行われているとされる。

実際のインタビューの席に同席したわけではないから、言葉のニュアンスは読み取れないが、大統領が言う「無駄なODA」とか「ばらまきODA」とは、ODAを天然資源の確保などもっと戦略的に使えというアドバイスだと思う。「ODAよりも民間投資を」というのも、経済状態が上向きになった国の元首からよく聞く話で、コンディショナルで使い勝手が悪いODAよりも、採算性が良ければ比較的自由に使えて、資金量も豊かな民間投資を求めるのも彼らに共通した話だ。

これは私の推論でしかないが、問題はむしろ聞き手にあるのではないか。日本の地方と中央の関係の問題点まで知る博識な大統領のさまざまな話を自分流に解釈して、日本へのアドバイスとしているように読めるのだ。

この記事を読んだ大統領がなんと言うか分からないが、世界の三大経済新聞の一つにも数えられる新聞の記事の信頼性は高い。主要な二国援助供与国であるイギリスやドイツ、オランダなどの担当者が記事を読み、対タンザニア援助を再考するような事態になることも考えられる。最近、援助額が激減しているとはいえ、主要な援助国である日本政府も大統領の話に驚きを隠していない。

タンザニアはまだ、2004年の一人当たりの国民総所得が330ドル(2006、共同世界年鑑)であり、所得が一日1ドル以下の人口比率(1990−2003年)が19.9%(2005、ODA白書)などの数字が示すようにまだまだ貧しい国だ。世界の国々が協調してタンザニアのさらなる経済発展を支援しようというときに、こうした記事が掲載されることは、決してタンザニア国民の利益にはならないだろう。