一般には必要のない知識より国際社会の知識を

vol.161  14 February 2007
JICA客員国際協力専門員 杉下恒夫

2月末から国公立大学試験の前期日程が始まるなど、大学受験はいよいよ仕上げにさしかかる。受験生にはこれまでの努力の成果を余すところなく発揮して、気持ちの良い4月、さわやかな春を迎えてもらいたい。

とはいえ、1990年以降、国公立といくつかの私立大学を志望する受験生にとって、大学受験のピークは個別試験よりも大学入試センター試験に移っている。今年のセンター試験は1月20、21日の両日行われ、「外国語」や「英語リスニング」に、約50万人が受験するなど全国の会場で受験生の熱いため息が漏れた。

私も自分の勤める大学を会場にして行われたセンター試験の予備試験監督だったので、当日は朝早くから研究室で待機していた。案の定、正規の試験監督のうち何人かが、風邪にかかり急遽、2日間とも代理の試験監督を仰せつかることになった。

身近に受験生がいる方は、もうとっくにご承知のことだが、2日にわたる試験の初日の教科は「公民」「地理歴史」「国語」「外国語」だった。選択する科目を細かく書くと「世界史A」「世界史B」「日本史A」「日本史B」「地理A」「地理B」「現代社会」「倫理」「政治・経済」「英語」「英語リスニング」「中国語」「フランス語」「韓国語」「ドイツ語」となる。

2日目の教科は「理科」「数学」で、選択科目は「数学I」「数学I・A」「数学II」「数学II・B」「工業数理基礎」「生物」「情報関係基礎」「簿記・会計」「化学I」「物理I」「地学I」「理科総合A」「理科総合B」となっていた。合計では6教科28科目だ。もちろん、受験生は、28科目全部を受験するわけではないが、それにしても多岐にわたる。

試験監督は試験の間、試験場内で足音を立てるのも、咳をするのも控えるほど神経を使うが、試験監督は一つの教室に複数いるので、分業して時には緊張を緩める。そんなつかの間の時間に、教壇の横に置いてあった残部の試験問題をちょっと開いて数問にチャレンジしてみたのだが、これがなかなか難しい。

英語、国語、世界史、日本史、現代社会、政治・経済あたりなら、なんとか解けたが、英語の発音なんていうのは、頭を悩ますものもある。昔から苦手だった数学や化学、物理などになると、自分もこうしたことを学んだという記憶がうっすらと浮かぶだけで、さっぱり解けない。さりげなく受験生たちの様子を見ると、なかには諦めて居眠りをしているのもいるが、スラスラと鉛筆を走らせ、次々とページをめくっていく受験生が圧倒的に多い。「受験勉強をしてきたとはいえ、こんな難しい問題がどうして解けるのだ」と、聞きたくなるほど落ち着いている。

私は職業上、いろいろな大学でたくさんの学生に接する機会があるが、世間では常識とされている当たり前のことを知らない学生に時々出くわす。ブランド校といわれる大学の学生が、たった20年前の日本の首相の名前を知らなかったり、基本的な経済用語を平然と「聞いたことがない」という。あの難解なセンター試験を乗り越えてきた若者と、目の前にたまに現れる、あきれるほど社会常識がない若者がどうしても一致しないのだ。

私は社会人となってから二次関数が解けないことや、ミトコンドリアのことを知らなくて困った経験は一度もない。もちろん、将来、そうした分野を専門に勉強することを目指す高校生には、そのような設問も重要だと思うが、文系の仕事に携わる若者にまで一様に試す知識でもないだろう。

では、現代日本人の多くにどのような知識が求められるのか。それは、世界の実情だ。後発開発途上国の貧困削減問題、地球環境、エイズなど感染症対策、民族紛争など知っておかなければならないことは山ほどある。

安部政権は、教育改革を大きな課題としている。基礎学力の低下を招いたゆとり教育を見直す方針も固まりつつあるが、改革によって授業時間が増えるのなら、一番優先されるのは、世界をもっと深く知る国際授業だと確信している。