政府は5位転落をどう受け止めるのか

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.187 18 April 2008
JICA国際協力専門員 杉下恒夫

4月4日に発表されたOECD/DAC(開発援助委員会)の2007年ODA実績で、日本はDAC加盟22か国中、5位に転落した。予想通りと言えばその通りで、別に驚くことでもないという気もするが、事実を突きつけられると、やはり軽いショックを受ける。

私が記者時代に開発援助を専門に取材するきっかけになった理由の一つは、1989年に日本のDAC/ODA実績がアメリカを抜いて世界一になったことだった。世界のトップドナーとなった日本がどのような経済援助を行っているのか、マスコミの耳目がODAに集中した時期でもあり、私も上司の指示で日本のODAを本格的に取材し始めたのだ。

90年代、バブル経済が弾けたとはいえ、日本のODA予算は拡大を続け、不動のトップドナーである日本の援助実績だけで、DAC加盟国の援助実績の合計額の2割以上を占めるという年も連続した。98年度にODA予算が初めて前年比でマイナスになった時、当時の外務省の経済協力の責任者が「私は歴史に残る責任者になってしまった」と嘆いていたのを思い出す。この方が大げさに「歴史的」というぐらい、それまでODAは日本の外交政策の重要なツールとして尊重され、ODA予算は“聖域”だったのだ。

それが最近は財政再建の絶好のターゲットと化した。現在のODA予算は最大だった97年度の6割以下にまで削り取られてしまい、プライマリー・バランスの黒字化を目指す「骨太の方針」が続く限り、少なくとも2011年度までこの削減傾向に歯止めはかからない。仮に年4%弱の削減が2011年度まで継続されると、2011年に日本のODA実績(ネット、債務救済は除く)は、75億ドル前後になると予測される。2007年実績で6位だったオランダは約62億ドルだから、まだ、かろうじて5位の座は守れるかもしれないが、国の経済力に見合ったODA実績(対GNI比)という点では、最下位(2007年は22か国中、20位)になる可能性も高い。

テロ対策を絡めた貧困削減の重要性を認識して、経済援助拡大の必要性を謳った2002年の開発資金国際会議(モンテレイ)以後、米、英、独、仏などの主要援助国はODA実績を増やしているが、どこの国の懐中もそれほど余裕があるわけではないようだ。各国とも2007年の実績は、DACが期待しているほど伸びてはいない。しかし、増加傾向にあることは間違いなく、上位4か国と日本の差はさらに拡大するだろう。

平和的な経済協力を日本の主要な国際貢献策としてきた政府も、さすがに5位転落を重く受け止めている。だが、財政再建に例外項目を作るのは好ましくないという意見も政府内に根強く残り、ODA予算の増額の道のりは厳しい。一部に06年の「骨太の方針」を撤廃、ODAを増額する方向で調整に入っているという嬉しい話も聞くが、もし、これが単なる希望として論じられているのなら、むしろ慎んだ方が良いだろう。

ODA予算の増額要求は、これまで何度も日本政府首脳や政治家の口から出たが、その都度、財政再建という大きな壁を前に立ち往生してきた。過去のODA増額発言が、なんとか国際社会における日本の責務を遂行しようという、真摯な気持から発せられたものであることは疑わない。しかし、日本の財政状況から見て実現性のない話をしても、相手に期待をもたせるだけで、それが反古(ほご)になれば、かえってマイナス効果にもなる。

ODA予算増要求が日本の財政当局に向けた発言だとしても、ニュースは瞬時に世界を駆け回り、国内向け発言は即、国際社会への発言ともなる。政府首脳のODA予算を巡る意見表明は、日本のODAの動向に耳をそばだてている途上国の人々を意識して、慎重に行う必要がある。もっとも、政府首脳はそんなことは重に承知だろう。だから、もし彼らが次にODA予算の増加を口にするときは、すでに政府内の根回しが終わり、実施に向けて確たる見通しが立った時、と考えて良いのかもしれない。

そうなると…次の政府首脳のODA増額発言が楽しみになってくる。