やせ地に美味しい豆は出来るのか?

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.188 14 May 2008
JICA国際協力専門員 杉下恒夫

 4月半ば、外務省から2007年版の「ODAの点検と改善」が発表された。2007年版は、数値で計測しやすい施設案件などを対象にして15%程度の総合コスト削減目標を明示した。さらに、JICAが案件形成に関与する案件で、工事契約までに7年以上もかかっている有償資金協力案件についても「相手国政府の協力を得つつ、期間の半減に向けて努力する(つまり3・5年前後に短縮する)」とするなど、初めて数値目標が掲げられている。数値目標の設定は、これまでの「点検と改善」と比較しても国民に理解され易く、ODA改善に大きく踏み込んだものといえるだろう。

「ODAの点検と改善〜より質の高いODAを目指して〜」(以下、「点検と改善」)は、2005年12月に発表された国民に向けてのODAの努力目標であり、「戦略性の強化(選択と集中)」、「効率性の向上(コスト削減)」、「チェック機能の強化」という3つの柱の下に10項目の改善措置が示されている。2005年版の実施状況を参考して、2006年にはさらに改善を進めるための改訂版「ODAの点検と改善 2006」を公表、今回の2007年版はその第3弾に当たり、過去2回の「点検と改善」の進捗状況を踏まえたうえで、一歩進んだODA改革への取り組みを示したものだ。

これまでの「点検と改善」に明記された努力目標は、一部で早くも成果を挙げつつある。JICAの技術協力事業の例をとれば、競争性のない随意契約277億円のうち、131億円(約47%)を2011年度までに一般競争入札などに切り替えることになり、全契約金額の83%、全案件の62%が競争性のある契約に改善されることが決定している。また、無償資金協力においても、コスト削減の効果が表われており、2007年の学校建設事業において平均で約30%のコスト削減が実現する見込みだ。

第3弾を読んで私が特に評価したいのは、ODA事業執行に係るコストを従来のように工事コストと調達コストの削減に主眼を置いたものから、もっと総合的な視点に立ち、質とコストの両面からODA事業のプロセスを見ようという「ODAコスト総合改善プログラム」を策定していることだ。「総合コスト削減」は、案件形成・計画段階から総合的にコストを見直すことで、計画・設計・積算の最適化、事業の迅速化が達成され、それがコスト削減に結びつくという発想だ。総合的見直しによって、計画から実施までプロジェクトの風通しが良くなり、コスト・ダウン、スピード・アップすることが期待できる。

また、「総合コスト削減」の基本的な考え方に準拠すると、供与する施設の長命化を図ることも可能になるという。ODAによって作られた施設の耐用年数の延長、維持管理費の削減によって、コスト削減を実現するという「ライフサイクル・コスト(LCC)」思考の導入は、私も以前から主張してきたことであり、LCC思考の導入は今後のODAコストの合理化の切り札になると確信する。

この第3弾の発表でODAの改善がすべて終了するわけではない。2007年版では数値目標の対象から外された施設案件以外の案件のコスト削減目標や、「総合改善プログラム」の対象外となった政策制度支援、ノンプロ無償、草の根無償などについても、別の視点からの改善策が必要だ。誰もが満足するODAの改善まではまだ、多くのタスクが残っている。

「質の維持とコスト削減」というODA改革の基本は、市場経済下の社会常識では、相容れない課題だ。ODAの改善に努力している関係の皆様には誠に申しわけないが、今後のさらなるコスト削減を考えた時、ふと「やせ地(コストの削減)の豆(質の悪い事業)のサル泣かせ」という諺を思い出した。諺というものは、平易な言葉で表現されているが、積年の生活経験から生まれた含蓄のあるものが多い。よくかみ締めると短い言葉の中に一理も二理もあり、普通のやり方では逆らえない重さがある。

「点検と改善 2007」が目指すゴールは、この諺に逆らう未踏の分野だ。しかし、現代は、農業技術の向上によって「やせ地」にでも「美味しい豆」が出来る古い諺泣かせの時代だ。ODA改革でも、先人の常識を覆す技術・方策を活用して素晴らしい成果が生まれることを期待したい。