是非、発行してほしい日本のODAマップ

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.195 11 Sep 2008
JICA国際協力専門員 杉下恒夫

今頃、北京オリンピック関連の話をするのは、IT時代の素早い時の移ろいに乗り遅れ、タイミングのずれたKY的話題となるのだろう。それを承知で、今回は北京五輪関連の話を紹介したい。

話と言うのは、北京オリンピック開催を前に国際協力銀行(JBIC)北京駐在員事務所とJICA中国事務所、在中国日本大使館が協力して作成した「北京ODAマップ」のことだ。このマップは日本語版が約85000部、中国語版が約5000部製作され、オリンピック開催期間中に北京を訪れる日本人を主な対象者として配布された。

縦タテ30センチ、横40センチほどの紙が8つに折られ、これを広げると北京市中心部の主要道路、主要公共施設、地下鉄路線図のほか、国家体育場(鳥の巣)、国家遊泳中心(競泳センター)、工人体育場(サッカー会場)、五棵松棒球場(野球会場)などの五輪競技場が描かれた地図が現れる。

これがODAマップたる所以は、同じ地図上に北京市下水処理場、北京市地下鉄、日中友好環境保全センター、日中友好病院、北京消防技術訓練センターなど日本のODAで作られた施設が書き込まれていることだ。地図の裏面には、日本の対中ODAと、各プロジェクトの簡単な説明がある。

大雑把な地図だから、北京に不案内な人の地図としての機能にはいささかの不安はある。だが、少なくともこのODAマップを手にした人は、北京市内に数多くの日本のODAプロジェクトの存在することを知る。たまたま乗った地下鉄区間が、日本の経済協力によって建設されたものと知れば、さらに驚くことだろう。

世界中で日本のODAが実施されていることは、誰もが知っている。しかし、現地に行っても、どれが日本の協力によって作られたものなのか、経済協力と無関係な人には分からない。私が大学で教えていた昨年まで、毎年夏休みにゼミの学生とアジア諸国の研修旅行に出かけた。研修国での移動の車中、窓から見える研究所や病院、橋などを「あれは日本の協力によって作られたものだ」と伝えると、生徒たちは「日本のODAのプロジェクトって、ずいぶんたくさんあるのですね。私たちだけだったら、知らないで終わってしまいます」と、驚いていた。

国民のODAに対する理解、誤解が多い理由の一つに、ODAの実態が分かりにくいことがある。ODA理解促進の最善策は、現地で活用されているODA事業を国民が自分の目で直接、確かめることだ。そのコンセプトで実施されているのが公募で選ばれた人たちを現地に派遣、真のODAの姿を見てもらう「ODA民間モニター制度」だが、年100人弱の派遣では、国民全体にはなかなか浸透しない。同制度は予算不足で存続すら危ぶまれている。

ODAマップの配布によって、行きずりの観光客にも、裸のODAの姿を見てもらうチャンスが生まれる。円借款関係では北京だけでなく、重慶やバンコク、マニラなどですでにODAマップが作成されていると聞く。援助実施機関の統合を機に今後は円借款に加え、技術協力、無償資金協力も含めたODA全体のマップをタイ、インドネシア、中国、フィリピンなどの主要都市を対象に制作、観光客に配布したらどうだろう。ODAの理解促進はもちろん、観光客にとっても市内観光の別の楽しさを発見できる一石二鳥の試みだ。予算の問題もあろうが、是非、実現してもらいたい。

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません