避けたい金融危機と途上国援助削減の悪循環

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.199 14 Nov 2008
JICA国際協力専門員 杉下恒夫

アメリカ発の世界金融不安は、まだ出口も見えない闇の中にある。経済政策を重視するオバマ次期大統領が、ルーズベルト大統領なみの画期的な対策を打ち出したとしても、世界経済の構造が複雑化しているだけに、危機的状況は簡単に納まることはないだろう。

私自身、金融バブルの恩恵を受けた記憶はないが、金融危機が株安、実体経済の後退にまで波及してくると、悪い影響だけはしっかりと身辺にも及んでくる。一般的に日頃からお金に縁のない人間というのは、社会が好景気に沸いていても、そのおこぼれを貰うことは滅多になく、不況になるともろに影響を受ける、という理屈に合わない立場にあるようだ。80年代の不動産バブルのときもそうだった。

世界中のほとんどの人が、不安な気持で金融危機の行方を見つめていることと思うが、一番心配しているのは空虚な金が飛び交うマネーゲームとは、何の縁もなかった途上国の庶民ではないだろうか。

世界金融危機の問題は、9月下旬にニューヨークで開かれた国連ミレニアム開発目標(MDGs)の達成策を話し合うハイレベル会合でも重要議題となった。今回の危機発生以前から目標達成が困難視されているアフリカ諸国に拠出金を増額する案について、フランスのクシュネル外相が「当面、新規拠出は制限される」と述べたと伝えられるなど、主要援助国は自国経済の建て直しに躍起になっており、とても途上国援助を増額する余裕は感じられない。

財政赤字に苦しむ日本の過去10年間の例を見ても、予算削減の対象として最初にヤリ玉に挙げられたのはODA予算だった。その結果が最盛時の6割弱にまで減った2008年度ODA予算だ。近年、著しくODA実績額を引き上げているアメリカ、イギリスなど欧米の主要援助国にあっても、これほどの危機となると自国経済を優先する政策を採らざるを得ないだろう。自国民の生活が脅かされている時期に対外援助を増やすのは、国民の批判の的にも成り易く政治的にも難しい。

日本はハイレベル会合の席上、TICADIVなどの場で福田首相が表明した「2012年までにアフリカ向けODAの倍増」を約束とおりに実施する方針を再確認した。だが、各種の景気浮揚策の実施に加え、不況による税収減などを考えると、「骨太の方針」のもと、約束履行には相当の覚悟をしなければならないだろう。

バブル景気→破綻における先進国富裕層と途上国庶民の関係も、極めて不条理な関係だ。マネーゲームを享受したのは、途上国の一部エリートを除けば、ほとんどが先進国の金持ちで、途上国の底辺に暮らす人々に直接的な恩恵は何もなかった。金が金を生み出す空虚なゲームに浮かれ、その度が過ぎて具合が悪くなったとたんに、自分たちの経済建て直しに専念しなければならないから、しばらく援助は増やせないと言われても、援助に頼って生きてきた人々には納得できないだろう。

不況だからといって各国がODA予算を絞ることは、マクロ経済的に見て必ずしも正解でない。世界に40億人いるとされる所得の貧困層(BOP: Bottom of the Pyramid)も、実は世界経済の重要なアクターだ。一人あたりの消費額が先進国の個人消費額と比べてはるかに少ないといっても、40億人の数の力が世界経済に与える影響はけっして侮れない。先進国が自国経済建て直しのために、ODA予算を削減すると、このBOP層に壊滅的な打撃を与え、世界経済が再生する際のネックになるという見方も出来る。

自分たちの生活が苦しい今こそ、より苦しい暮らしを余儀なくされている人たちにパンを分け与えることが、めぐり巡って自分たちの幸せな未来を導くということに、われわれ先進国の人間は早く目覚めるべきだ。