日本はソマリアの海賊にどう対応すれば良いのか

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.201 26 Dec 2008
JICA国際協力専門員 杉下恒夫

最近、海賊という文字が頻繁にメディアに登場している。海賊は他の船舶などを暴力で襲う集団であり、海賊行為は国際海洋法条約などで取り締まられる国際犯罪だ。しかしながら、海賊という2文字を見ていると、なぜか少年時代に思いを馳せる人も多いのではないだろうか。私もその1人だ。

海賊を少年たちのヒーローに仕立て上げたのはイギリスの作家、ロバート・スティーヴンスンの冒険物語「宝島」(1883年)だとされる。クロスした人骨の上に髑髏が描かれたお馴染みの海賊マーク(このマークを「陽気なジョリー」という)が描かれた旗を海風にはためかせ、縦横に船を操る海賊の姿には、略奪,戦闘という行為に疑問を持ちながらも冒険心溢れる自由人のロマンを感じたものだ。

海賊が登場する映画や漫画も数多くあった。一本足や黒髭の海賊船長は皆、怖いようで実は人情味がある人物が多かったことも海賊シンパを増やした原因だろう。歴史的にはイギリスのドレークやキッドなどという愛国的海賊の存在も、海賊が強面のヒーローとして美化された理由の一つかもしれない。

海賊への興味は、現代の若者たちにもあるようだ。世界各地のディズニー・ランド(行ったことはないが)などアミューズメント施設には、定番として海賊船があると聞くし、箱根・芦ノ湖などの遊覧船にも海賊船を見かける。ジョニー・デップ主演の「パイレーツ・オブ・カリビアン」などという映画もヒットした。

ところで、今、世界を煩わせている海賊は、そんな夢やロマンなど微塵もないただの犯罪集団だ。出没しているのは、アフリカ東北部ソマリア沖やアデン湾で、この海域では大型タンカーなどを襲う海賊事件が続発している。ロンドンの国際海事局(IMB)などの調べによると、2008年11月現在、ソマリア沖で昨年の3倍にあたる92件の船舶襲撃事件が発生して36隻が乗っ取られた(11月19日、読売新聞)という。

ソマリア沖に海賊が跋扈する理由は、ソマリアが暫定政府しかない破綻国家で、1万人以上いるとされる国内の海賊を取り締まる力がないためだ。海賊と国際テロ組織「アル・カイダ」の関係も取りざたされているが、ソマリア沿岸部のハラデレ、エイルの町などでは、海賊相手の海賊経済が栄え、豪邸を建て高級車を乗り回している人もいるらしい。

アデン湾がスエズ運河からインド洋に通じる海の大動脈であることは、周知のことだ。大型タンカーなど年間2万隻以上の船が通るこの海域での無法行為に、国連安保理は2回にわたって海賊取締り決議を採択した。決議に従い現在、米英仏露など15か国が艦船を派遣して警戒にあたっている。

海賊対策で日本は、1昨年まで世界の海賊事件の約半数が発生していたマラッカ海峡で実績を挙げている。武器輸出3原則の例外として今年はじめ、防弾ガラスなどを装備した高速巡視船3隻をインドネシアに供与(無償資金協力、2006年閣議決定)するなど、海賊事件の防止に力を入れてきた。海峡周辺国と良好な協力体制を構築したことも、成果に繋がっている。

しかし、ソマリア沖の海賊対策についてはまだ、何の対策も表明していない。アデン湾を通過する船舶の1割以上は日本関係の船舶とされ、日本人にとってソマリアの海賊は、ライフ・ラインを脅かす存在だ。この重要な海上交通路の安全対策を、多国籍海軍任せにしているが、早急に世界が納得する自国関係船の警護対策を講じないと、対日批判の国際世論が沸きあがる心配もある。

海賊対策として、海上自衛艦の派遣を想定した海賊取締法制定などの声もある。対症療法的対応について私には特に妙案が浮かばないが、長いスパンで考えるなら、ソマリアの平和構築、開発支援分野に日本がもっと介入することが、ソマリアの海賊問題解決に貢献する最善の手段だろう。

冷戦後も6つのクラン(氏族)が紛争を繰り広げ、途切れることのない内戦に、一時、世界はソマリアを見捨てた。海賊でしか生活の糧を得る道がない人たちを多数生んだことに、国際社会もいくらかの責任がある。ソマリアの平和構築などというと、気が遠くなるような話にも思える。だが、日本人のライフ・ラインの安全確保という視点からも、この忘れていた国への支援策を、真剣に考える時期にきているのではないだろうか。