今年は信頼される組織としてのあり方が問われる新聞

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.202 8 Jan 2009
JICA国際協力専門員 杉下恒夫

正月、私には特に外出する習慣もないので、今年も自宅で数日間、ぼんやり過ごす正月休みとなった。手持ち無沙汰になると、つい手元のテレビのスイッチを入れるが、画面に映し出されるのは、相も変らぬ空虚なバラエティ番組がほとんどで、すぐに切ることになる。

では、と机の上に置かれた分厚い元旦の新聞数紙をめくってみるが、たくさんある別刷りの特集には取り立てて正月に掲載しなければならぬほどの記事は見当たらない。広告等々、新聞社にもいろいろ事情はあるのだろうが、こんなにたくさんの紙を使うのは資源の無駄遣いではないかという気さえしてくる。しかし、各紙とも本紙のほうには今年の予測記事などいくつか参考になる記事もあり、書店で買った本を含めて、今年の正月もやはり活字を読む時間が長かった。

新聞を読みながらふと昨年末、読売新聞と米・ギャラップ社が行った世論調査(2008年11月、日米で実施、有効回答者数日米合計2,035人)の結果を思い出した。新聞社が実施した世論調査だから、多少、割り引いて読む必要もあろうが、本調査で「信頼している国内の組織、機関は」という問いをしたところ、日本では1位が新聞、2位が裁判所、3位が自衛隊という回答結果が出たという。ちなみにアメリカでは1位、軍隊、2位、病院、3位、警察・検察だった(新聞は8位)。一昨年の同調査でも日本の1位は新聞で、2位は病院、3位は裁判所だった。アメリカも昨年、1位軍隊は変わらず、2位は教会、3位は病院、新聞は8位だった。

新聞は私をジャーナリストとして育ててくれた母体であるから、こうした結果は正直に言って嬉しい。だが、過大に評価されているのではないかという、いくらかの不安も残る。先日、ある会議で居合わせた朝日新聞のOBと「最近の新聞はあまり面白くない」と、ほぼ同時に同じことを口にして顔を見合わせた。不公平な社会システムに怒りを覚えるような、また、知性や感性を震わせるような記事が、近頃、ずいぶんと減ったように思えるのは残念だ。以前に立花隆さんが「最近、新聞記者の取材力、表現力が弱っている」というような話をしていた記憶もあり、多くの読者が新聞の活力低下を感じているのではないだろうか。

昨年末にシカゴ・トリビューンや、ロスアンゼルス・タイムズなどを発行する米・大手メディア「トリビューン」が破産申告するなど、先進国のメディア界における新聞の相対的地位の低下は著しい。活字媒体である新聞がデジタル時代を生き抜くのは容易なことでないことは、良く分かる。だが、影響力低下の原因を技術革新、国民の活字離れのせいだけにしてしまうのでは、新聞の衰退は止められない。立花さんらが指摘するように新聞のパワー・ダウンということも考え合わせ、新聞自体がわが身を振り返る必要もある。

新聞は日米世論調査の結果のように、多くの日本人が一番信頼してくれている組織であるという事実を忘れてはならない。日本人が新聞に何を期待しているのかといえば、それはやはり三権の監視者、そして社会を正しい方向に導く長いスパンでのオピニオン・リーダーとしての役割だろう。

ODAと新聞の関係において考えても、同じことが言える。新聞には今年もODAに厳しい監視の目を光らせてもらいたいが、重箱の隅をつつくばかりで大局を見失ってしまっては、頼りになるオピニオン・リーダーにはなりえない。どうすればより国際社会に貢献する事業を展開できるか、新聞が持つ多くの情報網と経験を駆使して政府、JICAの政策決定、事業遂行に役立つアドバイスを投じてくれれば、新聞への信頼度はさらに向上するだろう。

新聞が社会の木鐸といわれたあの頃を思い出し、混迷する世界の監視人、水先案内人としてさらに機能するよう、新聞ジャーナリストの今年の奮起を期待したい。