前向きに考えたいアフガニスタンでの民間人の活動

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.206 2 Mar 2009
JICA国際協力専門員 杉下恒夫

2月中旬、奈良市で行なわれた「なら・シルクロード博記念国際交流財団(NIFS)」主催の「NIFS国際理解フォーラム」に出席した。その節、パネル・ディスカッションに参加していた2人のNGO活動家の素晴らしい話を聞いた。

2人はアフガニスタンに義肢を届ける活動を続けている「アフガニスタン義肢装具支援の会」代表、瀧谷昇さんと、アフガニスタンのへラートで寡婦や孤児の支援を行なっている「アフガン孤児支援・ラーラ会」代表、柄子真弓さんだ。

瀧谷さんは、奈良市内にある「奈良義肢」という義足や義手を制作する会社の社長さんでもあるが、35年前にJICAの指導教官としてアフガニスタンで、義肢装具の製作指導を行なった経験を持っている。瀧谷さんは、JICAの仕事を終えた後も、独自にアフガニスタンに義肢を贈る活動を続け、2002年にNGOを設立、これまで約200名に義肢を届けている。柄子さんも、1968年に奈良県初のJICA青年海外協力隊員としてマレーシアでの活動経験を持つ。2002年末からは、瀧谷さんらの協力でアフガニスタンの寡婦や孤児を支援する活動を開始、ヘラートに孤児院を建設、一方で寡婦の自立支援のための伝統手仕事センターの運営を行なっている。

浅学の私は知らないことが多々あるが、瀧谷さんの「義足や義手は、体の変化に合わせて2,3年ごとに小まめに作り変える必要がある」という話は、私には初めて聞く話だった。言われてみれば当たり前の話だ。子どもばかりか大人でも、体形は年とともに微妙に変化する。装具がしっかりと体形に合っていることが、欠かせない条件である義肢は、一度作れば、それで一生、使えるという装具ではないのだ。

以前、カンボジアのシェムリアップでJICAなどの支援を受けた「ハンディキャップ・インターナショナル」という国際NGOが、地雷被害者のための義肢制作を行なっている作業所で、初めて義足をつける10歳ぐらいの女の子に出会った。われわれの眼前で手すりにつかまりながら、恐々だが嬉しそうに足を前に出す彼女の姿を見て「ああ、あの子の人生はこれで大丈夫」と、目を潤ませた私は思えば軽薄だった。

戦闘や地雷の犠牲となった人たちに、義肢を制作して贈る活動は、その人の一生が終わるまで、型取りなどに手間をかけ、息長く継続しないと本当の支援にならない。受益者が限定され、手間ひまがかかるこの種の事業は、ODAには馴染み難い一面もある。しかし、犠牲者の社会復帰を助けるために、やらなければならない支援でもあるのだ。

最近のアフガニスタンの治安が悪化していることは言うまでもない。しかし、瀧谷さんは今も時々、アフガニスタンに足を運び、義肢提供予定者の型取り作業を行なっている。アフガニスタンの人々に贈られる義肢は、日本で体形に合わなくなり、新しい義肢に替えた人たちから寄贈されたものだ。瀧谷さんは現地で計った提供予定者のサイズをもとに、古い義肢を自分の作業場で調整、それをアフガニスタンに送っている。

「日本政府からアフガニスタンは危険だから現地滞在中は十分に注意せよ、出来れば渡航を差し控えろと、何度も警告されています。でも、多くのアフガニスタン人が私の義肢を待っている限り、私はやらなければならないと思っています。家族には私の身になにか起きても、これは私の自己責任でやっている行為だから、覚悟しておいてくれと言ってありますよ」と、瀧谷さんは言う。今も頻繁にヘラートに出向いて活動を続けている柄子さんも「危険は承知です。自分で出来る危機管理はすべてやっていますが、何が起きるかは分からない。私も家族に自分で決断してやっていることを理解していてくれ、と言ってあります」と、穏やかに話していた。

治安の悪い土地で活動する民間人がテロリストに拉致されたりすると、国民の間には無事を祈る声と、危険を承知で出向く人たちへの非難の声が同時に沸き起こる。紛争地の危険性を、いくぶんは知っている私も政府の勧告には、素直に従ったほうが良いと思っていた。だが、瀧谷さんらの話を聞いてから、現地で支援を待つ人のために身の危険を顧みずに活動を続ける彼らの行動理念にも、理解の念が膨らんできた。危険な場所で活動する彼らに、背中からの批判を浴びせる人に遣り切れなさも感じるのだ。

自国民の生命と財産を守るのは、政府に課された最大の責務であり、海外で日本人が事件に遭ったとき、解決に全力を尽くすのは当然の話である。同時に民間人も政府の指導に従うのが原則だ。しかし、危険地における民間人の活動を一様に評価するのは、如何なものだろうかという気もする。チャリティ、ヒロイズム、好奇心などだけが先行する活動と、瀧谷さんらの活動のように相手が強く支援の手を待っており、やむを得ず行なう活動を、同等に評価するのは適切でない。

現在、JICAはアフガニスタンに52名(2月24日現在)の職員らを派遣して、不安定な治安の中で、アフガニスタンの復興支援を行なっている。JICA関係者も、瀧谷さんも、柄子さんも、アフガニスタンの人々が安心して暮せる生活環境を作りたい、という気持は同じだ。

滝谷さんら個人が行なう活動は、対照的なものでもあるが、彼らが癒してくれた傷は、今後のJICAの規模の大きい仕事の導入部ともなるだろう。私も今後、危険地域での民間団体の活動を精査して、ほとんどに日本人は知ることがない活動の意義を、もう少し理解したいと思っている。