「ODAジャーナリストのつぶやき」を10年書き続けてきて

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.233 21 May 2010
JICA国際協力専門員 杉下恒夫

残念なことに気づいた方は少なかったようだ。実は今年5月10日をもって本欄「ODAジャーナリストのつぶやき」の連載は満10年を過ぎた。

10年と言えばひと昔。今回の「vol 233」という表示をご確認いただければ分かるように掲載本数は233本に達した。一本のコラムの原稿量が平均して400字詰め原稿用紙5枚だから、書いた原稿は400字詰め原稿用紙で約1150枚。中型の本なら3冊分ぐらいの字数になる。傾斜の緩い坂道を一歩、一歩ゆっくりと登っていたら、いつの間にか、かなり高い坂の上に立っていたという心境だ。

この欄が開設されたのは、2000年4月、当時のJICA広報課長だった末森満氏(現・JICA上級審議役)との雑談の中でのやり取りからだった。前月にそれまで30年以上勤務していた新聞社を辞めて大学に転職、同時にJICAの客員国際協力専門員の辞令を貰った私に末森課長から「JICAが新たに設けたウェブサイトマガジンにコラムでも書かないか」と話を頂いたのだ。長年、物書きの端くれとして生きてきたつもりの私は、転職によって書いた物を発表する場がなくなったことで、一抹の寂しさを覚えていた時だから、「やりましょう」と課長の話にすぐに飛びついた。

ただし、タイトルの決定には多少の論争があった。末森課長は現在のタイトルである「ODAジャーナリストのつぶやき」を最初から第一候補とした。だが、私は「つぶやき」という言葉にその頃、人気があった「つぶやきシロー」というタレントの顔が眼に浮かび、このタレントの芸風があまり好きでなかったこともあって、「つぶやきを何か別の言葉に変えられないか」と課長に抵抗したのだ。

しかし、課長は「杉下さんは記者時代から言葉が走る気配があるから、『つぶやき』としておけば、仮に不適切な表現で抗議が出ても『呟いただけですから』と穏便に逃げることができる」と誠に正しい理由を述べられた。それには私も納得、晴れてこのタイトルがJICAホームページのひと隅に10年間、載り続けることのなったのだ。

本欄スタート当時は、それほど使用頻度の多い言葉ではなかった「つぶやき」だが、最近はネット上で「ツィッター」が全盛を極めているせいか、ネットの内外でつぶやく人が増えている。本欄のタイトルもこうした最近の「つぶやきブーム」に便乗したもののように思われるが、前述のようにこちらは2000年創業の老舗であり、時代の先を読むタイトルを考え出した末森上級審議役の慧眼には、あらためて感服している。

第一回のつぶやき(メーデーに想う)から前回のつぶやき(対アフリカODA倍増に、ぎなた読みはない)まで読み返して見ると、自分自身で「面白くないな」と思う愚作も多いが、経済協力の仕事の難しさと喜びを、それとなく国民に伝えられたなと思う会心作もいくつかはある。仄聞だがホームページ上のヒット数も多いということで、リーダーから手紙やメールで頂いた感想も10年間ではかなりの数になった。

もっとも、わざわざ感想を寄こしてくれる人たちは、概ね私の主張に賛同、賛美してくれる方々だ。知人からの好意的な感想記が多いのも当然といえば当然だ。だが、時々、知らぬ方向からドッキとする辛らつな批評が飛んでくることもある。一番多いのは「なんだ、かんだと理屈を捏ねながら最後はJICA、ODA礼賛の結論になっており、本コラムには批判精神が欠如している」というものだ。正直に言ってこの指摘は痛い。

そもそも本欄はJICAのホームページにあり、ODA批判をするのに相応しい場ではない。本コラムの批判精神不足に不満を持つリーダーにはその微妙な空間をご理解頂きたい。それに、私は記者時代から一貫して、日本は多様な理由から開発協力をもっと推進すべきだという信念を持っており、政府が決めるODA政策については時々批判しても、開発協力という行為を批判する気は持っていない。

本欄を通じて経済協力の難しさと重要性を理解してくれる方が一人でも増えればと思い原稿を書いている。だから、ODAに好意的な流れとなってしまうのだろう。それは本望だ。しかし、私が展開するODA必要論は、ほとんどは私が見てきた事実をもとに書いており、JICAのホームページだからと言って意味のないお追従記事でないことはご理解頂きたい。

私が新聞社にいた頃、「コラムニストは10年続けてやっと一人前」と言われていた。彫心鏤骨(ちょうしんるこつ)の名文が並ぶ新聞社のコラムとは比較しようもないが、我がコラムもやっと10年を過ぎることができたので、勝手に「一人前」と認証して先日、寂しい祝杯を一人であげた。今後もよろしくご愛読ください。