注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。
vol.252 16 Mar 2011
フリージャーナリスト 杉下恒夫氏
東北・関東地方で発生した超巨大地震は、これまでの尺度では測れない自然災害だ。このような過酷な試練がなぜ、われわれに与えられたのか、神に問いたい気持ちすらする。
被害がどこまで広がるのか予想もつかいない状況の中で、多くの日本人が被災地・被災者が一刻も早く救済されることを願っている。政治家も、役人も、企業家も、そして個人も私利私欲を捨て、国が一丸となって救援に全知全能を傾けたい。
地震発生直後から釘付けになっているテレビから流れてくる情報は、やるせないものばかりだが、時に心を和ませてくれるものもある。それは、海外から流れてくる支援の声だ。世界的に著名なスポーツ選手からの応援メッセージもうれしいが、何より有難いのは各国政府からの支援の意志表明や緊急救援隊派遣のニュースだ。
なかでも「日本は最も緊密な同盟国の1つ。あらゆる支援を惜しまない」と、早々に大規模な救援を表明してくれたアメリカのオバマ大統領、そしてアメリカ国民には改めて深い友情を感じる。大統領の言葉通りにアメリカが派遣したのは、原子力空母「ロナルド・レーガン」戦闘群の3艦のほか、強襲揚陸艦「エセックス」など9艦からなる大艦隊だ。戦時のような大艦隊だが、被災地が東北、関東の太平洋沿岸の広範囲におよぶ今回の地震の救援には戦場並みの装備が欠かせない。これ以上頼りになる味方はないだろう。
「ロナルド・レーガン」戦闘群は、13日に早くも宮城県沖に到着して救援活動を開始した。最良の日米関係を築いた大統領の名を冠した空母が宮城県沖にいるだけで、何かほっとする気持ちだ。
アメリカは艦船のほか、捜索・救援活動に当たる米国国際開発庁(USAID)の災害専門家を含む災害救援チーム150名が救援物資150トンを携えてやってきた。米国赤十字や国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」など民間団体、市民からの救援活動も活発化している。アメリカという国は時々傲慢な顔も見せるが、弱ったものには限りなく優しい顔を見せる国でもある。戦勝国アメリカに助けられた終戦直後の日本の侘しい雰囲気も思い出すが、今回は素直に支援を感謝しよう。
もちろん海外からの支援はアメリカからだけではない。いち早く緊急援助隊の派遣を発表した韓国、軍用機を含む大規模な救援隊を派遣してくれたオーストラリアをはじめ、中国、台湾、シンガポール、ニュージーランドなど91か国・地域、6国際機関(3月14日現在)が何らかの形で支援を申し出てくれている。
数年前、神戸市で開催された阪神・淡路大震災総括シンポジムに出席したことがある。席上、ある震災専門家が「日本のような先進国にあっては、海外からの援助隊は通訳、案内などに手がかかり、かえって迷惑になる」と話した。すると、民間ボランティアの方が「外国の援助隊を見ると、被災者は世界中の人が自分たちのことを心配してくれていることを知り、非常に心強い。海外からの援助隊は決して邪魔者ではない」と反論していた。
その時はどちらの言い分が正しいのか、素人の私には判断が付きかねたが、未曾有の震災に遭遇した今、ボランティアの方の反論が良く解る。日本は経済・技術大国とはいえ、これほどの巨大な災害の救済となると一国では対処できない。物理的な支援よりもっと大きいのは精神的な支援だ。今後の救援・復興計画の予測もつかない状態の中で被災者ばかりか国民の多くが心細さを感じている。そんな時、ボランティアの方が言うように世界中の人が、われわれの安全と生活に気遣ってくれていることを知ることは大きな喜びであり、また励みにもなる。
私が政府開発援助(ODA)を専門に取材を始めた80年代当時、マスコミでは日常的に「援助国」、「被援助国」という言葉を使用していた。その後、「被援助国」という言葉は相手国に対し失礼ではないか意見が大きくなって、公的な場で「被援助国」という言葉は消えている。確かに先進国が「援助国」であり、ほとんどの開発途上国が「被援助国」であるという認識は、ずいぶん雑で、失礼な言い方でもある。
だが、今回、日本は世界の多くの国から助けを受ける立場になった。「援助国」も時には「被援助国」になり、「被援助国」も時には「援助国」になることを実感する。世界はどの国も時局に応じて互いに助け、助けられる関係にあることの証明でもあるだろう。国難ともいえるこの時期、甘んじて世界の人たちからの善意の支援を受けたい。
高い能力を持つ日本人の事である。時間をかけても必ずこの未曾有の災害を乗り切るだろう。その後、われわれには大きな責務が生まれる。それはこの超大震災で得た2つの貴重な教訓を、のちのちの日本人に語り継ぐことだ。
その1つは人間の叡智だけでは制御することが出来ない自然の恐ろしさを忘れないこと。もう1つは、われわれは世界の人々の助け合いの中で生きているということだ。長引く不況で「よその国に援助しても何の意味もない。ODAは税金の無駄だ」と言う人も増えている。助ける余力を持つ国が、困っている国を助けるという当たり前のことを、今回、外国から受けた暖かい支援で知った人も多いだろう。国際社会への感謝の念を胸に、日本人は国際協力の重要性を理解する国民として生きて欲しい。