海は日本のフロンティア

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.281 10 May 2012
フリージャーナリスト 杉下恒夫氏

国連の大陸棚限界委員会(CLCS)が、日本の大陸棚を31万キロメートル拡大することを認めたことが4月中旬の新聞に載っていた。新たに日本の大陸棚として認められたのは、「四国海盆海域の大部分」「小笠原海台海域」「南硫黄島海域の一部」「沖大東海嶺南方海域の一部」の4海域。沖ノ鳥島南方の「九州パラオ海嶺南部海域」(約25万平方キロメートル)は、中国と韓国が沖ノ鳥島を岩だと主張しているため、残念ながら今回は認可が見送られた。

国の主権が及ぶ国家領域には、領土、領空、領海の3つがある。領海は領土に繋がる海域を指すが、1982年に採択(94年発効)され、「海の憲法」と言われる国連海洋法条約(UNCLOS)は、領土から12海里(約22キロ)までの海域を領海と定めている。

UNCLOSは「領海」のほか、「排他的経済水域(EEZ)」、「大陸棚」などについての海洋規範も定めており、領土から200海里(約370キロ)内の水産資源の優先獲得権が与えられるEEZについては、すでに国際社会に周知されているところだ。だが、海底の優先的活用国を規定する大陸棚条項を詳しく知る人はあまり多くない。斯く言う私も今回のCLCS勧告のニュースを読むまで、大陸棚についての知識は少なかった。

そこでUNCLOSの大陸棚条項を読むと、原則、領土から200海里までの海底が沿岸国の大陸棚として優先的な資源開発権が認められる。しかし、大陸棚が大きく、外縁が200海里を超える場合は、沿岸から350海里(約650キロ)、または水深2500メートルの等深線から100海里(約185キロ)のいずれかの遠い方の海底域が別途、大陸棚の範囲内にされるという。日本はこの規定に従って今回初めて大陸棚拡大をCLCSに申請、その約半分が認められたわけだ。今回、新たに拡大した大陸棚31万平方キロメートルは、日本の全領土(約38万平方キロメートル)の約8割に当たり、UNCLOSのおかげで日本が優先的に資源開発権を持つ場所が、一気に増えたともいえる。

海が国家の資産と見なされるようになったのは、1970年代半ばに世界各国がEEZを設定するようになってからだ。それまで世界中の海に出かけて行き、水産資源を獲り捲っていた日本にとってEEZ設定は、遠洋漁業に打撃を与えるマイナス面もあったが、国家領域大国の座を得ることにもなった。

日本のEEZ水域は、約450万平方キロメートル。世界で6番目(英仏は無人島のEEZ権を放棄しているが、英仏を入れると8番目)のEEZ大国になる。周辺国と係争中の南沙諸島(スプラトリー)などを勝手に含めて自国のEEZを300万平方キロメートルだと主張する中国よりも、はるかに大きいEEZ海域を有する国でもあるのだ。

それに加えて今回の大陸棚の拡大である。海底と言えば以前は深海魚の寝床ぐらいにしか思われていなかったが、近年、俄然、脚光を浴びている。それは、海底には膨大な資源が隠されており、技術の発達でそれらが利用可能な資源に変わってきたからだ。特に日本列島周辺は海底資源の宝庫とも言われ、多様な資源が海底に眠っている。水深500メートルあたりには「燃える氷」と呼ばれ、次世代のクリーン・エネルギー資源として有望視されるメタン・ハイドレードがある。日本の大陸棚に埋蔵されているメタン・ハイドレードの開発で、国内で消費するガス・エネルギーの100年分が賄えるという試算もある。

それだけではない。金、銀、銅、レアメタル、マンガンなどを含んだ海底熱水鉱床も日本周辺の海底、なかでも沖縄海域や小笠原海域に数多く分布している。日本付近の海底熱水鉱床の利点は、水深400メートルから1500メートルという比較的浅い海底に存在することで、採掘コストが安くなるという優位性がある。メタン・ハイドレードに関しては、今年3月、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が、近未来の商業化を目差して南海トラフ(静岡から四国にかけての太平洋海域)で試掘を行った。海底資源の活用は、もはや夢物語ではないのだ。

もう一つ、海洋国家・日本に嬉しい話がある。日本列島の近くには「日本海溝」、「伊豆・小笠原海溝」などがあり、200海里内の海水量(海水体積)で世界4位(1位はアメリカ)の海水大国であることだ。海水にはウランなどの鉱物資源が大量に含まれており、日本はその抽出技術で世界の最先端を走っている。こちらの未来も明るい。

日本という国は建国以来、島国の宿命である小さな領土と、少ない天然資源に悩まされ続けてきた。しかし、島国は海に囲まれた国であり、四方が海だ。その海が国家の重要資産に変わるとなると、宿痾(しゅくあ)の問題は解決される。今、閉塞感に苛まれる日本社会をこれほど元気付ける明るい話は、そうたくさんはあるまい。

ところで、海の資源の活用は日本だけに利益をもたらす話ではない。日本と同じように長年、資源小国という存在に悩まされ続けてきた南太平洋の島嶼国などにも、明るい話題となるに違いない。これらの国々に、日本が持つ海水利用や海底掘削技術を伝える技術協力を実施することで、諸国の発展を大いに助けることになるだろう。ちなみに海水体積の世界3位はキリバス、5位はインドネシア、7位はミクロネシア、9位はフィリピンだ。

陸のODAにはそろそろピークが来るかもしれない。だが、海という新たな領域を加えれば、日本のODAもまた新たな展開が可能だ。童謡「ウミ」にも歌われるように海は広くて大きい。海の面積は陸地の2.42倍もある。5月下旬、沖縄・名護市で「第6回・太平洋・島サミット(PALM6)」が開かれるが、JICAには海に向かう巨大プロジェクトを発信してもらいたい。