東京にAfDBアジア代表事務所が開設された喜び

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.290 12 Nov 2012
フリージャーナリスト 杉下恒夫氏

10月15日、東京・日比谷にアフリカ開発銀地域開発銀行(AfDB)のアジア代表事務所がオープンしたというニュースを聞いて、私は思わず頬が緩んでしまった。なんでそんなことが嬉しいのかと訝る方も多いだろう。だが、私は「バンザイ」と叫びたいぐらい嬉しい。

AfDBはアフリカの国々が欧州の植民地支配から解放されて次々と独立する中、1964年に設立された。設立当初はアフリカの独立国だけに加盟が許されていたが、1979年に域外国の加盟・出資を認める設立協定改正案が採択され、域外国の参加も認められるようになった。日本は1983年から加盟している。今はアフリカの54か国に域外の24か国を加え、計78カ国が加盟するアジア開発銀行(ADB)、米州開発銀行(IDB)と並ぶ代表的な途上国の地域開発銀行となっている。本部はコートジボアールのアビジャンにあるが、同国の治安悪化のため、2003年からチュニジアのチュニスに暫定本部が置かれている。

AfDBには設立以来半世紀、アフリカ以外の地域に事務所はなかった。東京の事務所は、AfDB初の域外事務所というステータスも付く。アジア代表事務所には、東京を基点にして中国、韓国などをカバーするリージョナル・オフィスとしての機能があり、中国などに仕事が発生すると、そのつど東京から職員が派遣される態勢だという。文字通りアジア地域の代表となるオフィスなのだ。

近年のアジアとアフリカの関係を俯瞰すると、嫌でも中国が目立つ。中国がアフリカに大量、かつ多岐わたって埋蔵する天然資源や、国際社会での影響力強化を狙って膨大な援助を行っていることは周知のことだ。不透明さは否めないが、2011年に発表された中国の「対外援助白書」を読むと、2009年の中国の対外援助総額は2560億元(約410億ドル)にも上る。これをOECD/DAC(開発援助委員会)が2011年末に発表したDAC加盟国の2009年援助実績と比べると、1位アメリカ(288億ドル、ネット)の約1・5倍、5位日本(94億ドル、同)の約4・3倍という途方もない数字になる。

同白書によると、中国援助の供与先は161か国、30国際機関となっているが、個々の供与国についての数値はない。ただ、「援助の80%はアジア、アフリカ諸国に向けられた」という記述がある。この時期、アジアで中国の援助を大量に受け入れていた国といえば、ミャンマー、カンボジア、パキスタン、ウズベキスタンなどが挙げられるが、アフリカ諸国に比較すると受取国の数は少ない。そこから推計すると、中国の対外援助の50%以上はアフリカ諸国に投入されたと見てもよいだろう。

JICAやNGO職員などでアフリカ援助に関わった人たちには、もう見飽きた光景だが、アフリカにはそこかしこに中国の援助プロジェクトが散らばっている。私も空港から滞在先のホテルまでの数キロの道のりに、次から次へと現れる中国援助の公共建造物に出くわし、うんざりした経験が何度もある。

もう一つ、アフリカで仕事をした日本人の共通体験は、街を歩いていて地元の悪ガキに中国人を指す「チノ」と呼ばれたことではないだろうか。中国とアフリカ、日本とアフリカの歴史的関係を比較して、アフリカの子供たちがアジア人といえば、最初に中国人を想起するのは仕方がないことでもある。だが、私が不快に思うのは、子どもたちが私と一緒に歩いている欧米系の仲間と、"中国人"である私との間に明らかに別の感情を示すことだ。かつて宗主として君臨した白色人種と、主に肉体労働者としてやってきた有色人種に対して持つ潜在的な差別感情なのかもしれない。しかし、昨今はそれだけではない気もするのだ。

現在のアフリカの人たちは、中国が経済成長によってアメリカと並ぶ大国になりつつあるとは、十分に承知している。膨大な援助をしてくれる国であることも知っている。それでも、中国人に対する敬意は芽生えていない。それはなぜなのか。中国が交易にしろ、援助にしろ、自国の利益のみを追求して、相手国の国民の利益を軽視しているからだ。自分たちが欲しいものだけを求め、剥奪するような行為を繰り返す中国人をアフリカの人たちは歓迎していない。

AfDBがアジア代表事務所を東京に置いた理由として、10月15日に東京で記者会見したドナルド・カベルカ総裁は「日本は域外加盟国としてアメリカに次ぐ出資国だから」と語っていた。だが、それだけではないはずだ。日本の財政状況を見て、今後も日本がアジア最大の出資国であり続ける保証はない。逆に中国が出資額を増加する可能性もある。しばらくは中国からの援助増も期待できるだろう。地理的にアフリカに近い北京を避け、あえて東京に事務所を置いたのは、アフリカ諸国が自国における中国の利己的な行動を快く思っていないからだ、と私は考える。

他方、日本は不況が続く中でも、誠実にアフリカ援助を続けてきた。こうした日本に強い信頼を寄せていることが、今回、東京にアジア代表事務所を置いた最大の理由だろう。アジアの国として初めて、アフリカの総合開発支援に乗り出した「アフリカ開発会議(TICAD)」の5回目の会議が来年6月、横浜で開催される。1993年の第1回TICADから20年間、アフリカの良き友として協力を続けてきた日本にとって、今回、東京にアジア代表事務所が開設されたことは、彼らの感謝の気持ちの具現だ。

アフリカの友人たちの誠意を見抜く優しい目に触れて私は嬉しい。