高校生パワーに圧倒された1日

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.294 4 Jan 2013
フリージャーナリスト 杉下恒夫氏

ある予備校が高校生を対象に行っている国際協力講座のプレゼンテーション大会が、昨年暮、東京・新宿で行われ、私は審査委員長を務めさせて貰った。

2012年6月から12月までの約半年間にわたって実施されたこの講座を受講したのは、将来、国際社会で働きたいという希望を持っている高校1年生と2年生の約20人。自分たちの夢を実現するためにはどんな大学・学部、大学院で何を学び、どのような先生に師事すれば良いのか、また、自分たちが足を踏み入れよう思っている国際社会とはどんなところなのか、などを今のうちに知っておこうというのが、受講した少年、少女たちの目的だ。

現役の高校生だから講義は学校の授業が終った夕刻から始まり、9時過ぎまで週一回、講義のほか、テーマを決めて参加者間のデスッカション、プレゼンテーションの訓練などをしてきたという。講師は国連専門機関のトップ経験者、大学教授、JICA専門家、NGO代表、青年海外協力隊OGなどが務めた。授業内容は国際問題の中でも開発関連が主流を占め、それぞれの専門分野から現場に密着した白熱講義が続いたと聞く。

もちろん、講義が進むうちに漠然と憧れていた国際社会への自分の適応能力に疑問を持ち、途中で辞めていった生徒もいた。だが、ほとんどの高校生は大学受験とは関係ない講義を最後まで頑張って受け、大多数がこの年齢層にしてはレベルの高い国際知識を身に付けて修了したと関係者は証言する。

この講座は2010年前から実施されており、一昨年の受講生の中には、ネット上で見つけた欧米のNGOの現地ツアーに参加、夏休み期間中、カリブ海やアフリカで欧米の若者の中で孤軍奮闘してきた頼もしい高校生もいた。さらに、この講座を修了した18歳から20歳の学生らが核になってNGOも結成されている。

その一つである10代による学生団体「僕らの一歩が日本を変える。」は、昨年末の総選挙に当たって「全国行脚」という全国キャンペーンを行い、各地の街頭に立って若者にインタビュー、日本の政治に望むナマの声を集めてきた。「日本が国連常任理事国入りを果たす」(岡山・18歳)、「日本にインテリジェンス・サイクルを作る」(福岡・17歳)、「国会議員の数と給料を減らす」(福岡・18歳)などまだ選挙権はないが、若者の自由な意見が彼らのHP上に踊っている。

さて、国際協力講座の仕上げとなったプレゼンテーション大会だが、お世辞抜きで素晴らしい発表が連続して行われた。すべてのプレゼンを紹介することは出来ないが、そのいくつかを紹介したい。

「トイレから始まる健康」と題したプレゼンは、感染症流行の根源にもなっているカンボジア農村部のトイレの問題について改善策を模索したものだ。彼女はカンボジアで普及が遅れているトイレ使用の重要性を自分で作った紙芝居で訴えた。また、「私たちのミッション」というプレゼンを行った女高生は、途上国の開発問題で若い自分たちに出来ることは何かを考え、自分たちに近い年齢層である小学生に世界の実情を知らせることが、彼女らの世代のミッションであるという結論に至った。感心したのは考えただけでなく、自分の母校の校長先生を訪ね、自分や同級生が講師となって小学校での開発授業の開設に漕ぎつけたことだ。このほか、「Break Our Fixed Ideas!」というプレゼンを行った生徒は、クラウド・ファンディングという資金調達手段を使って途上国の人の生活実態を映すドキュメンタリー映画の製作を提言した。この提言に至るまで、日、米、南アのドキュメンタリー映画監督にインタビューをしてきたことには驚かされた。

そんな中で私が最も印象に残ったのは「世界中の女性におしゃれを」というプレゼンだった。彼女は宗教上の制約はあるが、世界中の女性はミニスカートやパンツを穿いておしゃれをしてみたいものだという視点に立ち、おしゃれを開発の起爆剤にする提案を行った。具体的には世界のファッションを網羅するファッション誌を刊行、世界中に配布する。カタログを通じて途上国には先進国のファッションを、逆に先進国には途上国の伝統的衣装を販売するという構想だ。

これだけならフェアトレードの概念とあまり変わらず、特に新鮮味は感じないが、彼女の「女性がおしゃれをして家庭が明るくなれば、途上国の社会も改善され経済発展の起点をなる」という言葉は新鮮だった。女性のおしゃれから開発を考えた人の話はあまり聞いたことが無いので、フレッシュさを感じたのかもしれない。

審査を終ったあと、私はなぜか興奮していた。若いパワーに圧倒されたこともあっただろうが、日本の若者の内向き志向、それに伴うグローバル人材の不足が嘆かれる昨今の日本社会にあって、得難い少年、少女たちに出合ったことが大きい。

国際化に関して最近の若者は二極化していると言われる。つまり、国際問題に高い関心を寄せる若者と、まったく関心のない若者に分化しているのだ。しかし、世界に目をやっても、すべての若者が国際的視野に立って生きている国など聞いたことがない。何割かの若者が世界に関心を持ち、将来、国際社会に貢献したいと思っていてくれれば、それで十分ではないか。今回、プレゼンを行った高校生たちがさらに成長、日本の国際協力に担い手となってくれる日が来ることを楽しみにしている。