心強い参院ODA特別委員会の存在

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.298 15 Mar 2013
フリージャーナリスト 杉下恒夫氏

2月28日、参議院の「政府開発援助等に関する特別委員会」(山谷えり子委員長)から参考人として出席を求められたので、約2時間、最近の政府開発援助(ODA)対する私の考えを述べてきた。

最初に報告したいのは、参考人の関連資料として2本の「ODAジャーナリストのつぶやき」(「求められる多極化した国際社会に適合するODA政策」=2012年2月29日、「東京にAfDBアジア代表事務所が開設された喜び」=2012年11月12日)が、各委員の席に配布されていたことだ。小欄が国会関係者の目に留まっていたのなら嬉しい。

国会には衆参両院に多様な委員会があるが、ODAに関する委員会は参議院にしかなく、この委員会はODAと国会を結ぶ唯一の貴重なルートでもある。

国会議員がODAにどう関与するかについて、私はこの数年、複雑な思いを抱いてきた。1995年2月、この時も参議院の「国際問題に関する調査委員会」に参考人として招致され、約3時間にわたり、ODAに対する私見を述べた。話の中心は、当時、野党内で制定論議が活発化していた「政府開発援助基本法(ODA基本法)」に対する考察だった。

結論から言うと、席上、私はODA基本法制定に反対した。理由はいくつかあったが、一番恐れたのは開発援助に対する政治家の過度の介入だった。日本でODA基本法制定が話題になり始めた1980年代末、アメリカでも下院に対外援助をレビューするタスク・フォースが設置され、1989年、「ハミルトン・レポート」と呼ばれる報告書が議会に提出された。さっそく私もこのレポートを読んだが、最も印象深かったのは「1961年に制定された外国援助法が1件につき300近い議会への報告を義務付けているため、米国国際開発庁(USAID)の本来業務を滞らせている。この時代遅れの法律を早急に改正すべきだ」という指摘だった。もし、日本に援助基本法が制定されれば、アメリカと同じ問題が起きる危険性が高く、JICAなどの業務執行が滞ることを危惧したのだ。

もうひとつ、基本法制定に賛同出来なかった理由は、ODA族議員の増加の恐れだった。今では考えられないが、当時はまだODA予算が増えている時代だったため、議員に関与の機会を与える基本法が制定されることで、事業費などに群がる議員が出現しないかという心配だった。ODA基本法は、野党議員たちの強い働きかけもむなしく政府と与党自民党が制定に消極的だったこともあり、陽の目を見ることなく今日に至っている。

しかし、私は最近になってあの時、国会で反対意見を述べたことが良かったのか、悪かったのか、心が揺れ動いているのだ。

ODAと国会議員をもっと近づけても良いと思うようになった理由は2つある。1つは近年、政治家の活動に国民監視の目が厳しくなったことで政治家の倫理観も向上、昔のように露骨に予算に群がる族議員が見えなくなってきたことだ。2つ目は全く別の視点からのものだが、過去数年間にわたる日本のODAの規模縮小に歯止めをかけるには、国民の代表たる国会議員の支援が欠かせないのではないか、という思いだ。国の在り方の大枠を形づくる予算編成に、国民の声を代弁する国会議員の力が必要なことは言うまでもない。また、予算編成に強い力を発揮する財務官僚に、一定の発言力を持つ国会議員をODAから引き離しておいては、日本の開発援助はいつまでたっても削減の刃から逃げ切れない。

ODAの主要プレイヤーとして政府、NGO、地方自治体、民間企業、学界、マスコミなどが挙げられるが、国会議員の名が入ったことは一度もない。確かに政治家のODA関与はマイナス面も考えられるだろうが、プラス面も少なくないはずだ。外務省などに重要な外交ツールであるODAを、自分たちの専管事項として残しておきたいという気持ちが強いことは知っている。だが、個人的には国会議員という大物プレイヤーを、ODAのグランドに立たせ、持てる力を発揮してもらいたいという考えも捨てきれない。

それはさておき、今回、委員会席に並ぶ議員たちの顔を見て感じたことがある。それは、経済協力というあまり票にならない政策に関心を持って取り組む議員への尊敬の気持ちだ。開発問題に熱心になり過ぎて地元から批判を浴び、落選の憂き目を見た政治家を知っている。また、地元に帰ったら農業議員として振舞い、絶対にODAの話はしないという苦渋の国際派政治家も身辺にいる。こうした厳しい選挙区事情の中で、これほど多くの議員が開発問題に関心を示すとは、私は思いもしなかった。委員の先生方にはぜひ、今後もODAの良き意味の"族議員"であって頂きたいと願っている。

最後に私が当日、話した概要は以下の通りである。1)景気動向にもよるが、今後はODA予算の増額を目指して貰いたい 2)縮小した規模の現状下では事業の「選択」と「集中」に専念すべきだ 3)選択するセクターは国益、国際益に資する経済成長、資源確保、安全保障分野。一方、集中する地域として普遍的価値観を共有できる国々 4)日本のODAの現状に適合したODA大綱の改正 5)グローバル人材、特に開発協力分野の国際的人材育成−などだ。

いないとは思うが、もし、参議院での私の発言をもっと詳しく知りたい方がいたら、参議院のホームページを開いて「参議院インターネット審議中継」の「政府開発援助等に関する特別委員会」をクリックして下さい。長時間だから根気が必要です。