ジャパン・ライジング・アゲインを本物に!

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.303 5 Jun 2013
フリージャーナリスト 杉下恒夫氏

5月中旬、所用で1週間ほどマレーシアを訪れた。日本・マレーシア政府主催の「日本・マレーシア対話集会」のパネリストとして、初めてマレーシアに行ったのは25年以上前のことだ。それ以後もこの国とは何かと縁があり、もう10回近く足を踏み入れている。他の途上国に比べ政治、経済が穏やかに着実に進展してきたせいか、一度の訪問で強烈な印象を受ける事象は少なかったが、20年前の姿を思い浮かべると、アジアの中堅国として大きく変貌したことを実感する。

日程の関係でODAのプロジェクトを見る機会は少なかったが、JICA事務所の計らいで半日、クアラルンプール市中心部にあるマレーシア・日本国際工科院(MJIIT)を視察することが出来た。MJIITは2001年、当時のマハティール首相が提案、その後、日・マ両国政府が協議を重ねて2011年9月、日本の円借款、技術協力などを組み合わせた事業として開校した。マレーシアの代表的工科系大学であるマレーシア工科大学(UTM)の傘下にあり、工学・技術の教育、研究を指導する大学・大学院のほか、博士課程のプログラムも設営されている。

MJIITの何よりの魅力は、九州大学、慶応義塾大学など日本の25の大学がコンソーシアム・メンバーとして協力、マレーシアに居ながら日本型の最新工学教育を受けられることだ。博士、修士課程では日本人教員の指導、日本企業での研修なども準備されているという。キャンパス訪問中、ちょっと覗いた修士課程の授業では、日本人教員によるマレーシア人学生への英語の授業が行われていた。

MJIITは、日本の援助から卒業する国との持続的な関係を維持するプロジェクトの母系ともなるだろう。また、アジアの新興国で学ぶ意欲を持つ日本人学生の受け皿になることも見逃せない。つまり、ポストODA、グローバル人材育成という2つの課題を解決する事業のモデルであり、今後の進化を見守りたいと思っている。

それはさておき、今回、パソコンのキーを叩き始めた動機は、別の事にある。それは旅の折々に感じたマレーシア人の日本への微妙な感情の変化だ。昨年夏に会ったマレーシア人の友人は、英語のほか、多民族・多文化社会での生き方を学ぶため、近年、子弟をマレーシアに留学させる日本人が増えていることを例に挙げ、「われわれは長らく日本を見て学んできた(ルック・イースト)が、今では日本人がルック・サウスの時代になった」とばかに威勢が良かった。だが、今回の訪問で再会した彼は「高い技術を持つ日本と日本人を尊敬する」と妙にしおらしくなっていた。

昨年末に発足した安倍内閣は、金融緩和、財政出動など経済改革を実行、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加、医療、雇用、子育て、農業分野などで矢継ぎ早に成長戦略を発表して、世界の耳目を集めている。大量の経済ミッションを引き連れて諸国を回り、貿易、投資促進などを切り出す安倍首相のトップ・セールスマンぶりも、かつての日本の首相のトランジスタ・セールスマンを髣髴させ、各国メディアを驚かせた。昨今、マレーシア人ばかりか、世界の人々の日本を見る目が変わっていることは間違いない。

そんな日本の近況にマレーシアでお会いした中村滋大使は、「外交団の会議の場などで、しばしば『ジャパン・ライジング・アゲイン』という声がかかる」と話していた。「ジャパン・パッシング」、「ジャパン・ミッシング」、あげくは「ジャパン・バニシング(日本は消えた)」とまで言われた過去20年の屈辱を思うと、夢のような言葉でもある。

こうなると、「ジャパン・リカバリング」、「ジャパン・リバイタライジング」と日本復活の流れが、一層加速することを熱望するが、5月末の株の乱高下などを見ると、日本経済の本格的回復までは、まだしばらく時間がかかりそうだ。現段階において我が国の経済が復活の軌道に乗ったとは言い難いが、それでも、外国人の日本を見る目が変わり、われわれ日本人自身も多少の自信を取り戻していることは事実だろう。

日本人の中には自虐的思考法をすることで、自分を進歩的な人間だと勘違いする人がいる。だが、国際社会にあって自虐的思考法は、ただ、自分の評価を下げるだけの無意味なものだ。昔、アラスカのコディアック島で、別個の日本の漁業会社に勤める2人の日本人駐在員に会ったことがある。一人は「こちらは人種差別が厳しくて、暮らしにくい」とこぼし、昼でも窓のカーテンを閉めて生活、業績もあまり上がっていないようだった。しかし、もう一人の方は「島の人間は、私の言うことに従い、真面目に仕事をする」と自信満々で、仕事も快調だった。かように同じ条件下で仕事をしていても、本人の気持ちの持ち方一つで、相手の見る目と対応は違ってくる。「ジャパン・バニシング」などと言われても、ただ同調して卑屈に笑い、何の反発もしなかったことが、日本経済のバイタリティーを失わせる要因の一つだったとも言える。

やっと自信を回復し始めた最近の日本人の姿は、「ジャパン・ライジング・アゲイン」の国際ムード醸成を助けるに違いない。日本経済再生は日本人一人ひとりの気の持ち方とも無縁でない。経済に明かりが見え始めた今こそ、日本人は日本という国に誇りを持って背筋を伸ばして世界を歩こう。そうすれば再び光り輝く未来がやってくる。