TICAD5の食事は美味しかった

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.305 20 Jun 2013
フリージャーナリスト 杉下恒夫氏

6月1日から横浜で開かれていた「第5回アフリカ開発会議(TICAD5)」は、アフリカの質の高い成長を促すため、民間を原動力とする開発の促進などを謳った「横浜宣言」を採択して3日、閉幕した。アジアに続く成長圏として国際社会が注目するアフリカに対する日本のプレゼンスを示した会議だったと評価したい。

TICADは、1993年10月5日に第1回会議が開かれている。冷戦の終焉で世界の目が旧ソ連、東欧諸国に集中、湾岸戦争の後遺症、さらに主要援助国の積年の援助疲れというアフリカに逆風が吹く中、中山太郎外相(当時)が91年の国連総会で、アフリカに焦点を当てる会議の開催を提唱、2年後に東京で第1回「Tokyo International Conference on African Development(TICAD)」を開いたのだ。

会場となった東京・高輪のホテルには、アフリカ48か国の閣僚級代表のほか、主要援助国・国際機関の代表が姿を見せ、2日に渡ってアフリカの開発問題を語り合った。アフリカの自助努力のもと、援助国が協調して民主化、経済改革を支援する「アフリカ開発に関する東京宣言」を採択している。

一定の成果を挙げた会議だったのだが、マスコミの扱いは冷たかった。私の手元に残っているセピア色に変色した閉会翌日の新聞各社の記事を見ると、ベタから3段の30行程度の小さな記事ばかりだ。この背景にはその頃、経済危機のさなかにあり、政治的混乱が残るアフリカに対する日本のマスコミの関心が薄かったことがある。私も社内でTICADの重要性を説いたのだが、受け入れられなかった苦い思い出が残る。

また、主催した政府に広報マインドが欠落していたこともTICAD報道を貧弱にした一因だった。主会議場にマスコミの入場は許されず、記者会見も閉会後に一度行われたのみ。これではマスコミにTICADの正しい価値を知らせることはできなかった。

これに比べ、20年後のマスコミ各社の報道ぶりは隔世の感がある。新聞もテレビも連日、TICADの模様を大きく報じていた。第1回会議当初に比べ、政府の気合の入れ方も違ってきたが、アフリカが持つ多大な政治的、経済的ポテンシャルに、日本のマスコミも注目し始めたからだろう。首脳が来日したアフリカ各国の新聞、テレビもTICAD5の模様を大きく報じていたようだ。苦労して開催した国際会議でも、成果を広く人々に知らせなくては会議の意義は薄れてくる。マスコミの関心を集めることに成功した今回のTICAD広報には及第点を付けたい。

外務省報道課によると、今回の会議にはアフリカを中心に100名以上の外国人ジャーナリストが取材登録を済ませ、外務省が招聘したアフリカのジャーナリスト30名のほか、参加51カ国が1国1名以上、合計で150名から160名の海外のジャーナリストが横浜に集まったという。これに加え、約200名の日本人ジャーナリストが取材したのだから、報じられた記事の量が多かったのも頷ける。

ところで、急に会議の本筋と関係のない俗話になって申し訳ないのだが、私には興味深い話を仄聞した。それは今回、プレスに提供した食事の評判が大変良かったということだ。同課によると、会期中、1日と2日の昼食、夕食をプレスセンターに用意、メニューはビュッフェ式の各種の洋食のほか、イスラム教徒のジャーナリストも多いためハラル・フードも提供された。

2日夕には近くのホテルで、農水省などの協力を得て日本食のプロモーションを兼ねた外務報道官主催のディナーを開催、和牛、地鶏、国産野菜、みそ、醤油などを使った寿司、天ぷら、煮物料理などが供された。記事を書く合間に顔を見せた外国人記者たちは、心のこもった料理に舌鼓を打ったらしい。担当者によると、ディナーを終えて会場を出るアフリカ人ジャーナリストたちから「日本食は美味しい」、「素晴らしい味だった」など、お礼の言葉がかけられたという。満腹になって書いたジャーナリストたちの記事も、日本に好意的なものになったに違いない。

2010年11月、同じ横浜の国際会議場で開かれたAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議では、プレスに用意する食事の予算をケチり過ぎ、不味いという苦情が出たと聞いている。政権交代後はだいぶ修正されたようだが、事業仕分けの決定が金科玉条だったあの頃、国際会議予算も大幅に削られた。居心地の悪いホテルに泊まらされ、美味しくもない食事を出された外国のミッションは、日本の財政難を肌で感じたかもしれないが、良い思い出を持って帰国したとは思えない。

国際会議は情報入手、議事進行などで開催国に有利なことが多く、ホスト国が利益を得る会議になる例証が多々ある。また、参加者との人的交流の拡大、相互理解の促進なども魅力だ。日本が財政難で会議経費を捻出できないのなら、国際会議を招致しなければ良いのだが、会議の開催を回避し続けていると、国際社会における日本の存在感は低下する一方になる。G20などの国際会議を頻繁に開き、世界で存在感を高めている韓国を見れば、国際会議自国開催の必要性が分かるはずだ。

国際会議が的外れな経費削減の対象になってはならない。今後も必要な国際会議は積極的に招致、贅沢をすることはないが、経費を惜しまずに代表団にも記者団にも気持ち良く働いてもらい、日本に好印象を持って帰って貰おう。ちなみに今回の外務報道官主催ディナーの予算は、関係者の努力で200万円弱に収まったという。これで、世界のメディアがニッポンの素晴らしさを知覚、いくぶん贔屓目に報道したのなら、安いものだ。