世界で増える15歳未満のおかあさん

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.316 3 Dec 2013
フリージャーナリスト 杉下恒夫氏

だいぶ前に国連人口基金(UNFPA)から自宅に送って頂きながら、しばらく机に置いたままになっていた「世界人口白書2013」(日本語版)を、先日、郵便物の下から引っ張り出して読んだ。本白書は10月末に公表されているので、もう、お読みになった方も多いと思う。新聞記事にもなっていた。

初めは軽い気持ちでページをめくっていたのだが、私の顔はだんだん暗くなっていった。特に惹かれたのは、随所に挿入されているコラムだ。未読の方のために、そのいくつか(筆者要約)を紹介したい。

「私は13歳のとき、妊娠しました。その頃はまだ学校に行っていました。かれは私の面倒をみると両親に約束しましたが、その後、どこかへ行ってしまいました。出産したあと、両親が私の面倒を見てくれ、育児法を教えてくれました。私の望みはただ一つ、学校に戻ることです」(15歳、モザンビーク)、「14歳のとき、父が私と兄弟にこれからパーティーをするから一番いい服を着なさいと言いました。何が起こるか分からずに出たお祝いとは私の結婚式で、私は逃げようとしましたが、つかまって3倍以上も年上の夫と暮らすようになりました。10か月後、私は腕に赤ちゃんを抱いていました。私は夫の家から逃げだす決心をしましたが、学校に行かせてくれると言うので、戻りました。今、子どもは3人で、学校は5年生です」(17歳、チャド)、「私はとても幼くて、自分でもいつのことだか覚えていないほど小さな頃、夫となる人にもらわれました。私を育ててくれたのは夫です」(18歳、エチオピア)

日本人にはとても信じられない話ばかりだが、これらは後発の途上国では特に珍しくない事例のようだ。

2013年の世界人口白書(副題:母親になる少女=Motherhood in Childhood)は、低年齢で母親になる少女(18歳未満)の問題に焦点を当てている。前述のコラムだけではない。本記が伝える内容も衝撃的だ。「途上国の女性の約18%は18歳未満に妊娠、18歳未満の少女の出産は年に730万件、一日2万人に上る(2013年)」、「毎年、7万人の少女が妊娠と出産の合併症によって死亡している(同)」、「なぜ、少女妊婦の死亡率が高いのか。それは、貧しい家庭で育った子が多く、慢性的に栄養不足だからだ」といった話が列記されている。

もっと驚くことは、少女といっても10歳から14歳、児童と呼んだほうが適切な年齢の女の子の妊娠、出産が異常に多いことだ。「18歳未満の出産数730万件のうち200万件は、15歳未満の少女」、「途上国の少女の9人に1人が15歳前に結婚させられている。なかでもバングラデシュ、チャド、ニジェールでは3人に1人が15歳未満で結婚、これらの国では少女の10人に1人が15歳になる前に子どもを産んでいる」、「15歳未満の妊婦の死亡リスクは、さらに高く、それ以上の年齢の2倍になる」とある。

15歳未満の女の子の結婚(児童婚)は、増える傾向にあり、世界で5000万人の少女が15歳前に結婚させられるリスクにさらされている。特にサブ・サハラ地域では児童婚が今後、17年間で2倍になるという。

国連の定義によると思春期は、10歳から19歳までの世代を指す。思春期の少女は、現在世界に約5億8000万人(2011年国連統計)存在するが、妊娠に関するデータは15歳から19歳を対象としているものが中心で、10歳から14歳の年齢層の妊娠に関する情報はほとんどない。資料不足で実態がよく分からないため、10歳から14歳の女児の妊娠対策は、つねに後手に回っている。これも事態を悪化させている要因だ。

このため、UNFPAは15歳以下の女の子の結婚、出産の基礎データの整備を進めるとともに、少女の能力強化、ジェンダーの不平等を是正する男性と少年も含めた解決策の実施、人権の尊重、貧困削減などの対策を提言、児童婚問題をポスト・ミレニアム開発目標(MDGs)に加えるよう求めている。

参考だが、日本の思春期少女の出生率は、同白書にある2008年の経済協力開発機構(OECD)統計によると、1000人あたり約4.4人だ。OECD加盟国以外の中進国も含めた39か国中38位で、スイスに次いで低い出生率だが、昨今、男女の晩婚、未婚が大きな国内問題になっていることを思うと、予想外に多い感じもする。

母子が幸せな人生を送るには、整った出産・育児環境があることが必須の条件だ。強要されて結婚し出産、学校にも行けず、貧困の中で子育てする母とその子に幸せが待っているとは到底思えない。

性と生殖の問題は、その国の伝統的生活慣習の中に隠れ、よそ者には理解できない暗部がある。外国が口出ししにくい問題でもあるが、持続的な開発にはこの難題の解決が欠かせない。まして児童婚を巡る現況が悪化の傾向にあることを考えれば、日本など主要援助国、国際機関は、性と生殖の問題について、従来の枠を一歩踏み越えた対策を講じる必要があるだろう。JICAはその嚆矢となるプロジェクトを考えてみるべきだ。

今回、私が目を通した日本語版「世界人口白書」は、原本の一部訳だからA4版で約40ページ、厚さ3ミリの薄い冊子だ。重さにすれば150グラムにも満たない。だが、書かれている内容は計り知れないほど重く、冊子を保存するため書棚にしまう時、思わずフッーとため息をついた。