新都知事への追加注文は、「世界の人に優しい都市・東京」の創成

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.321 20 Feb 2014
フリージャーナリスト 杉下恒夫氏

2月9日の東京都知事選は、予想通り舛添元厚生労働大臣の圧勝で終わった。出馬表明の遅れがあったとしても、「即原発ゼロ」のシングル・イシューで世界有数の大都市の首長選を戦おうとした細川元首相陣営の戦略に無理があったことは、多くのマスコミが指摘するとおりだ。

劇場型シングル・イシュー選挙批判を恐れた細川・小泉元首相連合は、選挙戦中、原発以外の問題にも触れてはいたが、所詮は付け焼刃でアピール度は低かった。これに比べ舛添陣営は、防災、福祉、雇用、年金、景気、東京五輪、それにエネルギー問題までに話が及び、都が抱える問題をほぼカバーしていたといっても良い。

舛添、細川両候補がまったくと言ってよいほど、触れなかった問題は外交問題だ。一般に選挙戦は、有権者の身近な問題に焦点を当てることが極意で、海の向こうの問題に触れることはタブーとされる。私が親しかったある政治家は、国政選挙で正直に国際協力の重要性を訴え、落選してしまった。それを知っていたのか、国際政治学者である舛添候補ですら、外交に言及する場面は少なかった。

そもそも地方自治法が定める地方自治体の役割は、住民の生活に関わる身近な行政であり、憲法でも国全体に関係する外交問題は、政府の専権事項としている。自治体の首長が国際問題に首を突っ込むのは、越権行為ということだ。だが、選挙が終わってみると、主要な公約の中に国際問題が消えていたことに、多少の不満も感じる。

自治体の首長が外交に影響を与えた事例として誰もが思い出すのは、2012年4月、当時の石原都知事がワシントンで表明した都による尖閣諸島の一部買い取り提案だ。それが国を揺さぶり、野田政権の尖閣諸島国有化、反発する中国との関係悪化に繋がった。石原都知事の言動が不適切だったという批判は今も残る。

石原提案の良し悪しは別として、私は個人的には自治体の首長が国際・外交問題に口を出すことに、それほど否定的でない。憲法の下では異物・変則であっても、外交には複数のチャンネルが不可欠であり、自治体の首長も重要な回路の一つだからだ。1990年代、ニューメキシコ州知事だったビル・リチャードソン氏は、しばしば北朝鮮を訪れて金正日政権の幹部と接触した。この訪朝がどれほどの成果を挙げたか評価は不明だが、米政権に北朝鮮のナマ情報を伝える効果があったことは確かだ。

忘れてはならないのは首長が外交に関わる時、政府と目的を共有しているかどうかということだ。相手国に出向いて政府の方針と違うことを言って帰ってくるようでは、外交の一元性を失い、国家、ひいては国民の不利益を招く。舛添新知事は第一次安倍内閣の閣僚でもあった政治家だから、安倍政権の外交政策にそれほど違和感は持っていないだろう。学者として培った専門知識を活かし、自治体外交に精力の一部を割いても良いのではないか、と思っている。

新知事の国際分野の業務として、さっそくお願いしたい仕事の一つは、自治体間交流の推進だ。東京都は1960年にニューヨーク市と姉妹都市提携を結んだのを皮切りに、現在、北京、パリ、ローマ、ベルリン、ソウル特別市など世界の11市と姉妹都市提携をしている。

東京のような巨大国際都市が、今更、姉妹都市交流に力を入れる必要はないという人もいる。しかし、政府間関係に軋みが入った国に対しては、首都同士の草の根交流が重要な外交ツールとなることもある。国家間のもつれた糸を丁寧に振りほどくのには、政治家、外交官でなく市民という個人の力が効果を発揮するのだ。手始めにスポーツ交流などどうだろう。2012年に東京国際ユース(U−14)サッカーに北京代表チームが参加、東京と北京の若者の交流が深まったと聞く。

また、姉妹都市交流の原風景ともいえるホームステイの拡充にも力を入れて貰いたい。東京には多くの姉妹都市の若者を受け入れるキャパシティがある。平和で美しい東京の街並みに触れたニューヨークっ子、北京っ子、パリっ子たちが、日本に良い印象を持って帰国したら、それは大きな外交資産だ。

国際分野の舛添都政に一番期待するのは、都・区の国際協力活動の拡充だ。使われなくなった学校の椅子や机を途上国に贈る運動(江東区)、再生自転車を途上国に贈る事業(世田谷区)など東京都の場合、区が単位となって国際協力活動を行い、成果を挙げてきた。一方、巨大な組織力、財政力を活かし都が直接、北京市と実施した技術交流・協力事業(2009年)などは、質の高いプロジェクトであり、今後もJICAなどの協力を得れば、国家レベルの開発協力事業実施も不可能ではない。

1980年代から90年代、地方自治体が国際化に邁進していた頃、全国各地の自治体が「自分たちも政府開発援助(ODA)の主要なアクター」という自覚のもと、多様な国際協力プロジェクトに関与した。だが、現在、その熱気は消えている。東京都は率先して国際協力活動を再活性化させ、地方自治体の国際協力事業復活の嚆矢となって欲しい。

世界の弱者に届く暖かい目で、もう一つの東京の顔、「世界の人に優しい都市」を作ることを新都知事に期待する。