日本は無味無臭の「良い国」から脱皮を

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.323 18 Mar 2014
フリージャーナリスト 杉下恒夫氏

2月末に発表された「2013年版 政府開発援助(ODA)白書 日本の国際協力」を読むと、第1節の「変わりつつある国際環境の下でのODAの役割」の冒頭に、こんな一文があった。

「英国の公共放送BBCは毎年『世界に良い影響/悪い影響を与えている国』を調べる世界世論調査を行っていますが、日本は毎年『世界に良い影響を与えている国』の上位を占めています。最近では2008年と2012年に第1位になりました」というものだ。この文はその後に「高評価の背景には日本がこれまでに行ってきたODAなどの国際協力が大きな貢献をしています」と続くから、ODAがいかに日本の国際評価を高めることに役立っているかを伝えるため、BBCの調査結果を引用しているわけだ。私もその通りだと思うから、この件に異論を述べるつもりは、全くない。

BBCの世論調査は、2006年から毎年、世界の各地域から抽出した22から23か国を対象に面接や電話方式で行われており、日本国内では読売新聞が調査を担当している。調査結果は日本のマスコミでも報じられているのでご承知の方も多いと思うが、「2013年ODA白書」で触れていない年の日本の順位を手元の資料から拾うと、2006年〜2008年までは連続して1位、2009年は3位、2010年は2位、2011年は3位、2012年に1位に復帰、2013年は4位になっている。

上位常連国は日本のほかドイツ、フランス、カナダ、イギリスだが、中国、韓国は中位国で、中韓両国は「悪い影響を与えている国」での回答数も多い。「悪い影響」の上位常連国は北朝鮮、パキスタン、イランなどだ。

「世界平和度指数」、「工業製品の信頼度調査」、「最も暮らしやすい都市」といった類の国際世論調査で過去数年、日本はいつも上位にランクされてきた。日本がいろいろな分野で世界の人々から好印象を持たれている国であることは、喜ばしい。

だが、世界から「日本は良い国」とか「日本人は良い人」と言われ続けていると、私のような根性曲がりは、「それだけで良いのか」という意地の悪い感情も湧いてくる。身辺の人間関係を見渡すと、誰からも「良い人」と言われる人がいる。そう呼ばれる人の中には、積極的にリーダーシップを取り、集団をまとめ、指導する賢い人格者が多いことはもちろんだ。しかし、我を張ることもなく、ただ穏やかに仲間の意見を聞くだけの、毒にも薬もならない「良い人」がいないこともない。

日本が長年、世界から「良い国」とされてきた背景には、強い自己主張をしない「お人好し国家」の印象が強いからではないのか、と心配になる。戦後の日本は、平和を尊重する国家として荒事は極力避けてきた。その結果、政治、外交力よりも、経済、文化力といったソフトパワーを得意とするクールな国家という評価を確立した。こうした国家像は好もしいものであり、今後も維持する努力を続けたい。

しかし、国家間の利益がぶつかり合い、摩擦が激しくなっている21世紀の国際社会において、ニコニコ笑って他国の意見を聞いているだけでは、国民の利益を完全に守ることは出来ない。力ずくで物事の解決を図る強権国家になれと言っているわけではないが、反論を恐れることなく自分たちの考えをもっと強く発信しても良いと思うのだ。

安倍政権の安全保障戦略の基本理念は、積極的平和主義だ。平和を祈るだけでなく平和を築くために積極的に働こうというのなら、すべての国に良い顔をして、当たり障りのない外交を展開しても大きな成果は望めない。どちらか一方にとっては耳の痛い話でも、日本が正しいと信じるなら臆することなく打って出る外交を展開しなければならない。

日本がそういった積極外交に転換すれば、当然、いくつかの国からの反発が強まってくるだろう。そうなれば日本の"良い国ランク"は下がる可能性もある。だが、いったんはランクが下がっても、日本の国際貢献策が成果を挙げ、外交理念が国際社会に正しく理解されるようになれば、同じ「良い国」でも無味無臭の「どうでも良い国」から、苦味もあるがうま味も芳香もある「なくてはならない国」に変わることは必至だ。日本と並ぶ好印象国家である独、仏、英、加などはすでにこの域に近い。

実は「2013年ODA白書」にも、政府のそうした考えを偲ばせる記述がある。前出の文章の後段に「日本を取り巻く国際環境は近年大きく変化していることに留意しなければなりません。一つは政治安全保障上の環境変化です。世界各地で民主的な体制を求める民衆の声が高まる中、日本は自由、民主主義、法の支配といった普遍的価値に基づく国際秩序形成に向け、戦略的外交を展開してゆくことが求められています」、「ODAはそのための重要な手段です。ODAを通じて普遍的価値観や戦略的利益を共有する国、民主化・国民和解の動きを進めている国への支援を強めます」とあるのだ。

今後の日本のODAは、現在よりもさらに厳しい注文を相手国に付けるが、それは後になって「あのとき、日本に言って貰って良かった」と思わせる奥深いものになるだろう。初めは苦かった薬が効能を発揮した暁に、日本はまた世界から「良い影響を与える国」として高評価を受けるになるに違いない。いや、今よりもっと質の高い評価になるはずだ。