国旗の中のユニオンジャックは適切か?

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.361 28 Oct 2015
フリージャーナリスト 杉下恒夫氏

9月中旬から始まったラグビー・ワールドカップ・イングランド大会での日本代表の活躍は、多くの人を喜ばせた。特に9月20日の対南アフリカ戦で、奇跡ともいえる勝利を挙げたことで、日本でもラグビー・ファンが一気に増えたようだ。

私は1987年5月から開催された豪州・ニュージーランド(NZ)共催の第1回ラグビー・ワールドカップ日本対豪州戦をシドニーで見たことがある。日本代表を歓迎するレセプションで、1メートル90センチを超す大型ロック、栗原誠治さんらに会い、「これほど大きいのだから、豪州にも勝てるのでは…」と、淡い期待を膨らませた。だが、試合当日会場に行くと、豪州の巨漢フォワードに囲まれた栗原さんは一回り小さい。結果も残念ながら大敗した。悔しい思い出があるだけに、イングランド大会での日本代表の活躍は夢のようだ。

世界のラグビー強国といえば、即座にNZ、南ア、豪、英、仏などの名が挙がる。しかし、小国ではあるが南太平洋島嶼国もなかなか強い。今回のイングランド大会にも3か国(フィジー、サモア、トンガ)が出場している。そればかりか南太平洋島嶼国には、ラグビーの才能を持つ若者が多く、日本代表のホラニ・龍・コリニアシ選手(トンガ)のように出身国以外の国の代表となる選手も多い。ラグビー列強が南太平洋選手の獲得合戦をしていると聞く。

昔、取材でNZ・ウェリントン郊外の牧場に行ったとき、「どうやってもオールブラックス(NZ代表)レベルにはなれないので、諦めて実家に帰って羊飼いになった」と笑う男性に会ったことがある。彼は筋骨隆々の大男で、これほどの人でもトップ選手になれないラグビー強国の底力を見た気がしたものだ。フィジーにもしばしば仕事で足を運んだが、首都スバに6面ぐらいラグビースタジアムが並んでいる場所があり、休日ともなると、全スタジアムで試合が行われ、終日、屈強なラガーが激しくぶつかり合っていた。人口100万人にも満たない国でありながら、ラグビーが強い淵源を見た思いだった。

日本代表の活躍に興奮し過ぎて、ラグビーの話を長々と書いてしまった。だが、今回の主題は、ラグビー強国、NZとフィジーの国旗の話だ。

両国は今、国旗のデザイン変更を巡って国論が揺れている。

NZでは、これまでも国旗の意匠変更がしばしば検討されてきた。最大の理由は、隣国、オーストラリアの国旗と酷似していていることだ。これに加えて独立して70年も経つのに、英国への忠誠と、植民地であったことを示すユニオンジャック(英国旗)をいつまでも国旗に入れる必要があるのか、という懐疑の声だ。NZ政府は、11月から国民投票を実施して新国旗候補のデザインを決め、来年3月に国旗変更の是非を問う2度目の国民投票が行うと発表している。9月に投票の対象となる5種のデザインが公表されたが、NZ固有種のシダ「シルバー・ファーン」を取り入れたものなどで、いずれもユニオンジャックはない。

NZには今でも自分たちの先祖が英国から来たことに誇りを持つ英国系の人が多く、彼らは国旗からユニオンジャックが消えることに反対している。来年3月の国民投票の結果は今のところ、予測がつかない。

一方、ユニオンジャックと椰子の木などが描かれた国章がデザインされたフィジー国旗も、たびたび変更が議論されてきた。フィジーは英連邦を離脱した過去もあり、国旗デザイン変更でも「植民地だった過去を肯定する意匠は、現代のフィジーに相応しくない」とユニオンジャック外しを求める声が強い。バイニマラマ首相は、今年2月、「10月10日の独立記念日までに新国旗のデザインを決める」と明言したが、未だに新国旗採用の話は伝わってこない。何かの事情で新国旗の審査が難航しているのかもしれない。

フィジーの人種構成はメラネシア系が約60%、英植民地時代に労働者などとして移住したインド系が約40%で、ニュージーランドに比べると英国望郷の念は薄い。ユニオンジャックのない国旗が採用される可能性は高いだろう。

ユニオンジャック(ユニオンフラッグ)は、英国の国旗の通称で、大英帝国の象徴でもあった。1931年のウェストミンスター憲章によって英国と対等な共同体となった豪、NZ,南ア、カナダ4か国の国旗にユニオンジャックが付けられ、それ以外のほとんどの英植民地旗にもユニオンジャックが付いた。だが、カナダは1965年に国旗のデザインを変更してユニオンジャックを外し、南アも1994年の変更で完全に除去している。今も国旗にユニオンジャックを残しているのは、豪、NZとフィジー、ツバル、クック諸島のオセアニア5か国だけだ。

両国がこれからどんな国旗を制定するのか、それは国民が決めることだ。だが、あえて個人の意見を言わせてもらえば、ユニオンジャックを外した国旗のほうが良いような気がする。理由は簡単だ。国旗は国の象徴であるのだから、そこに住む住民に深い関係のある絵柄を選ぶべきで、よそ者であるUKの象徴、ユニオンジャックは似合わない。そもそも先進国、途上国が共生する新しい世界地図が描かれようとしている21世紀に、18世紀の帝国主義を想起する意匠は時代錯誤だ。

英国人にとって、英国以外の国の国旗からユニオンジャックが消えてゆくのは、淋しいことかもしれない。だが、過去、英国に多大の利益をもたらした旧植民地に感謝して、今後、途上国の開発協力にいっそう励めば、ユニオンジャックは国旗ではなく、人々の心の中に永遠に残るはずだ。