世界のパワー偏在を証明するフォーブス誌のリスト

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.363 24 Nov 2015
フリージャーナリスト 杉下恒夫氏

アメリカの隔週経済誌「フォーブス」は、いろいろなランキングを発表することでも知られているが、7年前からは「世界でもっともパワフルな人(The World's Most Powerful People)」というリストを発表している。

世界の人口1億人に1人を選ぶのが基準のようで、2015年は世界人口の増加に合わせ、前年より1人多い73人が選考された。選考基準はどれだけ多くの人に影響力を持つかという点にあり、Capable(有能)とかGentle(優しい)でなくても、Powerful(強力)であれば良いようだ。だから、パワフルではあるが、「良きにつけ悪しきにつけ」という修飾語を付けたい強面の人も混じる。

11月4日に発表された「2015年版・世界でもっともパワフルな人」で、1位に選ばれたのは、昨年に続いてプーチン露大統領だった。AFP通信はプーチン大統領が選ばれた理由として、9月末、シリア・アサド政権支持のため、空爆を開始したことや、クリミア半島の強制編入に対する国際社会からの厳しい批判にも屈しない強い態度を挙げている。ロシアの世論調査で、87%もの国民の支持を得ていることも、強力な人物という評価に繋がっているようだ。だが、プーチン大統領の昨今の佇まいは、世界の普遍的価値観から見て、けっして褒められたものではない。「悪しきにつけ…」の修飾語を付けたい人物の一人ともいえる。

2位は前年5位だったメルケル独首相で、AFPは28か国が加盟する欧州連合(EU)のリーダーとしての存在感、シリア難民、ギリシャ経済危機に対する毅然とした対応がランクを上げた要因だとしている。一方、アメリカの大統領として初めてトップ2の座を落ち、3位となったオバマ大統領については、任期が残り少なくなっていることや、支持率の低さ(50%以下)で影響力を失ったためだとしている。ちなみに4位は、世界に10億2000万のカトリック信者を持つフランシス法王(前年4位)、5位は中国の習近平国家主席(同3位)だった。

昨年、日本の首相として初めてランク入りした安倍首相は、順位を22位も上げて41位。フォーブス誌は「今年、最もランクを上げた人物。過去の日本の首相は、脆弱な政治基盤に足を引っ張られて力強さが欠けていた。だが、安倍首相は安定した政治基盤の中で、世界3位の経済大国としてのリーダーシップを発揮している」というコメントを付けている。フォーブス誌のランキングを鵜呑みにして喜ぶつもりはないが、日本の首相が世界的な影響力を高めることは嬉しいことだ。

たかが41位ではないか、という意見もあるだろう。だが、73人の中には日本の豊田章男トヨタ自動車社長(28位)や、ビル・ゲイツ・マイクロソフト共同創業者(6位)、ダグ・マクミロン・ウォルマート社長(32位)などビジネス界の人物や、ジャネット・イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長(7位)、黒田東彦日銀総裁(50位)など経済財政関連の指導者が多く、国王や宗教的指導者を除く純粋の政治家は、19人しかいない。

政治家だけを見ると安倍首相は、前述の4人のほか、キャメロン英首相(8位)、モディ・インド首相(9位)、中国の李克強首相(12位)、オランド仏大統領(16位)、イスラエルのネタニヤフ首相(21位)、ブラジルのルセフ大統領(37位)に次ぐ11位だ。フォーブス誌の評価は、力の要素として「どれだけ多くの人に影響を与えることが出来るか」という視点があり、人口大国や従業員の多い世界企業のリーダーが上位にランクされている。そう考えると、巨大な人口、国土を持たず、英仏のように旧植民地利権もなく、世界に広がるユダヤ人の支持もない日本の首相にしては、安倍首相の評価は高いと言えるだろう。

フォーブス誌のリストを眺めていて感じるのは、73億人(最新のデータでは76億人)もいる地球人が、たった73人という少数の強い影響下で暮らしているという怖さだ。特に問題なのは、73人のほとんどが先進国の人物であることだろう。リストに入っている途上国の人物といっても、中国、インド、ブラジル、エジプトといった新興大国に属する人で、後発途上国の人物は1人もいない。フォーブス誌が経済に重点を置く雑誌であることを差し引いても、彼らだけが「世界でもっともパワフルな人」だと言われると、異議を挟みたくなる。

途上国の中に世界に大きな影響を与えている人物は本当にいないのか。そんなことはない。誰でもすぐに数人の名が頭に浮かぶだろう。例えば、グラミン銀行を創設したバングラデシュのムハマド・ユヌス氏(2006年ノーベル平和賞)、2014年にノーベル平和賞を受賞したパキスタンのマララ・ユスフザイさん、同年にマララさんと一緒にノーベル平和賞を受賞したインドのカイラシュ・サティヤルティー氏など偉大な貢献をしている人物は山ほどいる。

しかし、彼らは国際社会に警告を発する力はあっても、世界の基盤を動かすまでのパワーは持っていないことも確かだ。残念ながらフォーブス誌のリストは、現在の国際社会において、途上国の人に世界を動かす力がないという帰納を導き出す資料ともいえる。また、地球の富と権力の偏在を、別の角度から証明するものでもあるだろう。

こうしたいびつな世界は、出来るだけ早く改善したい。数年後にはフォーブス誌のリストに、多くの後発開発途上国の人が顔を出すようになることを期待する。