反転ODAのキーワードは戦略性と柔軟性

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.366 14 Jan 2016
フリージャーナリスト 杉下恒夫氏

新年を迎えると「今年は良い年になりますように」と願うのが世の常だ。とはいえ、昨年の正月、同じように良き年の到来を願った人たちの中で、どれぐらいの人が年末に「良い年だった」と回顧出来たのだろうか。

個人の事情までは分からないが、2015年の国際社会を再考すると、パリの同時テロ、新聞社銃撃テロ、欧州に押し寄せたシリア、アフガニスタンなどからの難民、ネパール大地震など、悪い事象が多かった。一方、国内では、関東、東北地方の豪雨被害、マンションの杭データ偽装事件など歓迎されざるニュースもあったが、大村、梶田両氏のノーベル賞受賞、ラグビーワールド杯での日本チームの活躍、北陸新幹線開通、訪日客急増、19年ぶりの高値終値となった東京株式市場大納会など、比較的明るいニュースが多かったように思う。

楽天家の私などは、インドが計画中の高速鉄道に日本の新幹線方式採用、「あかつき」の金星周回軌道投入成功、農水産物輸出最高記録更新、ちょっと気になる課題もあるが国産初のジェット旅客機MRJの初飛行、さらに羽生選手のフィギュアスケート・グランプリ・ファイナル3連覇など心地よいニュースがつぎつぎ頭に浮かぶ。環太平洋経済連携協定(TPP)大筋合意、安保関連法成立は、良いニュースと思う人と、悪いニュースとする人に分かれるだろうから判別は避けたい。

ところで、ODAジャーナリストを自認する私にとって2015年に一番嬉しかったニュースは、2016年度予算政府案で、政府開発援助(ODA)予算が17年ぶりに増額されたことだ。2015年12月24日に閣議決定された予算案によると、16年度ODA当初予算は、前年度当初予算比97億円(1・8%)増の5519億円となった。97億円増えたぐらいで喜ぶな、という厳しい声もあるだろう。だが、17年間もズルズルと減り続けたODA予算の目減りに歯止めがかかったのだから、この予算案の意義は大きい。

17年前の1999年度ODA当初予算は、前年度比16億円増の1兆489億円だった。だが、その2年度前の日本のODA予算がピークだった1997年度当初予算は、1兆1687億円だったのだから、2015年度まで19年の間に6265億円(53%)も削減されたことになる。ODA予算の削減は、長い間、ODA関係者の中で憂慮されてきた問題であり、今更、書きたてる話題ではないが、17年ぶりの予算増を前に、改めて振り返ってみるとその削減額の大きさに驚く。

経年するODA予算削減について、私も何度か小欄(2001年5月26日付けほか)や、古巣の読売新聞のオピニオン欄などを借りて反対してきた。しかし、微力のジャーナリストのか細い声は、政府に対して些かの説得力もなかった。無力感から、最近はODA予算増を求める筆を動かす気力も失せていた。

ODA予算の氷河期、経済協力に関心を持つ政治家たちに会ってODA予算削減問題について問うと、多くの人が「ODAは日本の重要政策だから、予算増のために努力したい」と熱く語っていた。だが、財政再建という大義に直面すると発言は簡単に撤回されてきた。安倍首相も、岸田外相も以前から開発協力重視の姿勢を見せていたが、政治家のリップ・サービスに懲りていた私は、本心とは信じていなかった。それが来年度予算で僅かでも増えるのだから、喜ばしい。

さて、予算増で攻勢に転じるだろう日本のODAは、どのようなものになるのか。昨年2月に閣議決定された「開発協力大綱」の内容や、これまでの首相、外相の発言からある程度、そのシナリオは読める。2016年度型ODAの概略は、戦略的かつ柔軟なODAの展開だ。

外務省は同省のHPで、新年度から始める戦略的ODAの目的を「途上国の経済発展に資すると同時に、日本の国益に資すること」、「積極的平和主義の具現に向けての重要な外交手段となること」などとしている。具体的には(1)日本にとって好ましい国際環境を作るODA、(2)新興国・途上国を取り込んだ日本経済活性化に与するODA、(3)国際保健外交戦略(UHC)など人間の安全保障の推進によって日本に対する信頼強化を挙げている。

これを私流に言い換えれば、(1)は友好国の拡大による日本の安全保障に資するODAであり、(2)はインフラシステム輸出など日本経済再生を側面から支えるODA、(3)は過去60年間、培ってきた「人に優しいODA」の継続という事だろう。戦略性が重視され過ぎると、(3)がおざなりになる心配もあるが、日本にとって好ましい国際環境も、経済活性化も、日本人に対する信頼があってこそ成就するのだから(3)が最も重要だ。

国際情勢の方向性が見えない現在、経済援助を国益に結びつける傾向は、中国など新興国だけでなく、米欧先進国の間で顕著になっており、日本がODAの戦略性を高めることは、特に批判されるものではない。ODAが日本と相手国の国民双方、さらに国際社会の利益に繋がるものであれば、どこからも歓迎されるはずだ。

来年度、多少予算が増えるといっても、日本のODAの懐は相変わらず、寒い。ODA実施の目的達成のためには、知恵をしぼって高度な戦略の構築とより柔軟な発想が求められる。いくらか明るい気持ちで迎えることが出来る新年度ODAの動向を期待して見守りたい。

蛇足になるが、新年度のODA予算案5519億円を、語呂に合わせて「GOGO行く」と、縁起良く読んでいる方も多いだろう。