一帯一路の命運を握るアフガニスタン

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

vol.371 24 Mar 2016
フリージャーナリスト 杉下恒夫氏

マスコミは浮気者だ。とはいえ、ホットニュースを報じることが宿命なので、浮気は職業病ともいえる。国際問題においては、世界各地で次々発生する民族紛争、自然災害、政局などを追わなければならない。だから、目先はつねにキョロキョロする。新しいニュースが起きれば、関心はたちまちそちらに移り、古いニュースは片隅に追いやられる。

私も長らくマスコミで働いていたので、限られた紙面や時間枠の中では、新しいニュースが優先されることは仕方がないと思う。だが、怖いこともある。それは、大々的に報じられたニュースでも、新しいニュースが発生すると以前のように大きなスペースを割いて報じられなくなるため、読者や視聴者は問題が解決したか、小康状態を保っていると勘違いすることだ。

アフガニスタン問題は、そうしたニュースの1つだろう。2001年10月にアメリカが空爆を開始、タリバン政権を首都カブールから撃退した当時の新聞は、連日、アフガニスタンのニュースで埋め尽くされた。だが、治安維持権がアフガン政府に委譲され、国際治安維持部隊(ISAF)の戦闘任務が完了するなど混乱の縮小と共に掲載されるニュースの量は減っていった。JICAも2002年に事務所を開設、カブールのインフラ整備のほか、各地で農業、農村開発などを進めているが、現在のマスコミへの露出度は少ない。

もちろん、最近でもアフガン関係のニュースは、時々見かける。しかし、「イスラム国」やシリア情勢を伝えるニュースに比べると少量だ。マスコミ上はやや霞んできたアフガニスタンだが、現状を見ると国家再建が順調に進んでいるわけではない。今もカブールなどでタリバンによる自爆テロが連続しており、ジャララバードでは「イスラム国」による外国公館襲撃事件なども発生している。

そんな当地の直近のニュースは、アフガニスタン政府と旧支配勢力タリバンの和平に向けた話し合いの場の再設定だ。両者の対話を促す協議にはアメリカ、中国、パキスタンが加わり、2月6日にパキスタンのイスラマバードで、和平への行程表が策定された。3月上旬にはアフガン政府とタリバンの対話再開も期待されたが、タリバンは外国軍(アメリカ軍)の駐留などを理由に、現在も対話に応じていない。タリバン内にもハッカニ・グループなど強硬武装派勢力と、穏健派の対立が起きているとされる。アフガニスタンは、今も世界のマスコミの視線が集まるべき国なのだ。

さて、少し視点を変えて和平協議に関わっている3か国の心根を探ると、こちらも興味深い。隣国パキスタンはそもそもタリバン揺籃の地であり、昨年7月にアフガン政府とタリバンの直接対話を仲介したように、現在もタリバンへの影響力を残している。タリバンの一部幹部はパキスタン領内に潜んでおり、彼らを野放しにする事で、パキスタンの治安が乱れることも悩みの種だ。こうした事情に加え、米中からの強い圧力もあって、なんとかタリバンに話し合いの場に出るよう説得せざるを得ない苦しい立場にある。

一方、アメリカは、あれほど大きな財政、人的対価を払ってタリバン政権を排除しただけに、アフガンに好ましくない政体が生まれることは、何としても許せない。タリバン強硬派を含んだ恒久融和を成立させ、民主的な政権の樹立を画策している。

3か国の中でアフガンの安定を最も望んでいるのは、中国ではないか。理由はリスクが差し迫る国内事情だ。中国はアフガニスタン・バダンフシャン州と、ウイグル族が多数住む新疆ウイグル自治区が国境を接しており、この接点は中国治安の弱点とされる。タリバンや「イスラム国」などイスラム過激派勢力と、自治区内のイスラム勢力の連帯が強まることは、辺境の治安を乱し中国の少数民族政策にも悪影響を及ぼす。

しかし、中国にはアフガン安定を望むもっと大きな理由がある。それは習政権が国家の命運をかけて進めている「一帯一路」構想の「シルクロード経済ベルト(帯)」中心部に、アフガニスタンが位置することだ。アフガニスタンをこのまま不安定な状態にしておくと、中国と中央アジア、南西アジア、中近東、欧州を結ぶ巨大経済圏構想の真ん中に、危うい空白部分を作ることになり、構想全体が頓挫する危険も大きい。

中国はアフガン復興の道筋が明快でない時期から、ローガル州の銅山や、サーレポ州、ファーリヤーブ州の石油、天然ガス開発に30億ドル以上の資本を投下しており、国営通信新華社によるとこれまで中国のアフガンへの総投資額は、100億ドルに達するという。最近、中国が優先課題としているのは、豊富な石油、天然ガス資源を埋蔵するトルクメニスタンとアフガニスタン、パキスタン、インドを結ぶパイプラインの建設で、アフガンの治安問題で工事が遅れれば、西部地域開発計画の根幹を揺るがす問題にもなる。

アメリカ軍の駐留を理由に、話し合いの席に着こうとしないタリバンとアメリカが今後、どう折り合いをつけるか、「中国の夢」実現の鍵をアメリカが握っているという皮肉な構図も見え隠れする。

過去に大英帝国、旧ソ連、アメリカが泥沼に嵌まったアフガニスタンは、「帝国の墓場」と呼ばれる。今のところ、中国が軍事的介入をする気配はないが、100億ドルもの資本投下は、すでに泥濘に足を突っ込んだとも言えるだろう。昨今の戦争のツールは火器から、経済、情報に多様化した。中国も投資という経済戦争に踏み込んだことで、アフガニスタンで彷徨する悪夢を拭い切れない。