- 協力期間:
- 2005年~2008年
- プロジェクト概要:
- スレブレニツァ地域は、紛争末期にボスニア系(ムスリム)住民とセルビア系住民の対立が激化し、ボスニア系住民(ムスリム)の大量虐殺事件が起きた場所であり、民族間に残された不信感情が地域の発展を妨げている。JICAはスケラニ地区を始め6地区で、帰還家族や母子家族を主な対象とし、農牧業の再興を通じて住民の経済的な自立を図るとともに、農作業や技術研修を通じて民族間の対話や交流を活性化し、難民・国内避難民の帰還の促進を目指している。
社会的弱者が特定され、確実に恩恵が届いているか
慎重な受益者選定
スレブレニツァ地域はボスニア系住民(ムスリム)の大虐殺事件がおきた場所であることから、復興支援において、ボスニア系住民(ムスリム)が支援の対象になることが多いが、実際には多くのセルビア系住民も犠牲になっている。よって、本プロジェクトでは、特定の民族ではなく、支援を必要とする人々を対象とすることを基本方針とし、具体的には、帰還家族・母子家族・戦争傷痍家族を含む事業・グループによる共同事業を優先して選定した。このことが住民の不満を最小限に押さえ、プロジェクトへの信頼感を高めることに繋がっている(受益者内訳:セルビア系451家族(57.3%)、ボスニア系335家族(42.6%)、うち帰還家族57.2%)。
また、生活レベルや支援の受益状況は、民族だけでなく、帰還民であるか否か、いつ帰還したのかによっても異なり、住民の持つ不公平感や不信感は他民族に対するものだけではない。同民族間であっても、受益者と非受益者の差が顕在化しないよう、受益者の選定条件を明確化し、一人当たりの支援規模が大きくなりすぎないよう配慮した。
経済的自立と帰還の促進
各事業の収益性は確保される見込みであり、ブランドロゴを使った共同出荷、業者とNGOの販売契約、養蜂事業のアソシエーション結成などの組織化が進んでいる。
また、当該地域において帰還者数が増加しており(スレブレニツァ市長談)、低年齢層の居住者が顕著に増加しているように感じられる(2007年5~6月 中間評価調査団)。
行政による人々の保護能力が発現しているか
紛争の再発予防
民族間の交流が活発化することで、一時的に摩擦が生じる可能性もある。同プロジェクトでは、専門家が現地に常駐することで、問題や意見の対立をその場で解消するよう努め、スレブレニツァ市関係者がプロジェクト関連の討議に出席することで、これらの問題の解決に努めている。たとえば、商品のロゴを決める際に、用語や使用する文字(セルビア系はキリル文字、ボスニア系はローマ字を使用)で意見が分かれたが、専門家の代替案の提示や市の職員からのコメントによって、最終的には合意が得られた。
人々のリスク対応能力が向上しているか
両民族間の交流の活発化
新規作物の技術習得を目的とした多数の研修が民族を問わず行われ、養蜂事業でも、両民族のアドバイザーが巡回し、民族を問わずに指導を行っている。また、受益者間やNGO間の会合、両民族による共同出荷など、事業を通じた民族間の交流が盛んになっている。日常生活でも交流が深まっており、紛争前にみられた宗教行事への相互訪問が復活しつつある(セルビア系住民がバイラム(イスラム教の断食明けの祝祭行事)に参加するなど)。両民族が農牧業の再興という共通の目的のために協働して活動する機会が増えることにより、両民族間の信頼醸成が少しずつでも進み、民族共生の道を探る一助になることが期待されている。
NGOメンバーや帰還民と対話するJICA専門家(スレブレニツァ地域における帰還民を含めた住民自立支援計画)
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