澤田霞さん率いるアフリカスキャンが展開するブルー・スプーン・キオスク

第1章:何もないからチャンスがある!
ベンチャーよ、アフリカのコンビニ「キオスク」を狙え!

現在のアフリカの多くの国はまだインフラも法律も未整備。一見するとビジネスを起こすのは難しそうです。でも、「何もない」からこそ、最先端の技術やサービスを一気に導入するチャンスに恵まれているといえます。つまり、ITなど先端技術業界やベンチャーにとっては、最高のフロンティア。そのフロンティアに立ち向かう起業家2人に出会いました。アフリカスキャンの澤田霞(さわだ・かすみ)さんとデジタルグリッドの秋田智司さんです。両社とも、JICAの民間企業支援のスキームを活用して、いまアフリカの地でユニークな、そして現地の人々に直接役に立つビジネスを展開中。共通するのは「キオスク」です。

その1:タブレット端末でキオスクをコンビニ化!
健康診断でアフリカ人の健康とマーケティングを

ケーススタディ アフリカスキャン

TICAD Ⅵでは、開会に当たって安倍晋三首相が現地で基調演説を行いました。そのスピーチの中で、安倍首相は1人の日本人女性の名前を挙げました。

2016年8月27日、ケニア・ナイロビで開かれた
TICAD Ⅵ開会にあたって基調演説を行う安倍晋三首相
写真提供:内閣広報室

アフリカはいま、旧来技術を飛び越え、最先端の質を目指している。ですから当然でしょう。面白い、関わりたいと思う日本の若者が、最近増えてきました。
例えば、「アフリカスキャン」。
青年海外協力隊員(JOCV)としてセネガルで働いた日本人女性、ハーバード大学でMBAを取った日本人男性、そしてケニアで育った男性。若者たちが出会い、ナイロビで作った会社です。
「ブルー・スプーン・キオスク」という、彼らの小売店に行くと、買い物ついでに、タダで血圧を測ってくれます。サービスのイノベーションです。
澤田霞さん、おいででしたらお立ちください。元JOCV、いまアフリカスキャンを切り回す、若い日本の起業家をご覧ください!!!
大陸は,多くの協力隊員を鍛えてくれた。同じ大陸はいま,彼女のような、日本の若い起業家が、夢を追う場となりました。

(TICAD Ⅵ 安倍首相基調演説より)。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/afr/af2/page4_002268.html

澤田霞さんはアフリカスキャンを起業した1人で、私と同じ青年海外協力隊の出身者です。安倍首相も注目した澤田さんたちは、いったいどんなビジネスを展開しているのでしょう?

まずは、TICAD Ⅵの会場に入ってみましょう。ナイロビの中心にある国際会議場。セキュリティチェックをパスした私が真っ先に向かったのは、日本企業や自治体の技術や製品、サービスを現地に紹介するサイドイベント「ジャパン・フェア」の会場です。入り口では、アフリカらしいコーラスを聞かせてくれる合唱団が出迎えてくれました。

TICAD Ⅵ会場入り口で、見事なコーラスを聞かせてくれる合唱団
アフリカの女性は本当におしゃれです。

巨大なテントの青いのれんをくぐると、会場には所狭しとブースが並びます。

会場に入っていちばん奥、TICAD Ⅵの展示場で、ひときわ目立つ鮮やかなブルーのブースが目に飛び込んできました。

青い壁に「BLUE SPOON KIOSK 」と描かれています。壁には棚があり、さまざまな食品が並んでいます。これは、アフリカの各地にある小売店「キオスク」を模したものです。お店を出している会社の名は、アフリカスキャン。この会社がいま、日本で、アフリカで、大きな注目を浴びています。

アフリカスキャンを率いる澤田霞さんは、大学卒業後、青年海外協力隊に入隊し、セネガルで活動したのち、2014年ケニアでアフリカスキャンを立ち上げました。20代の元気の良い女性です。余談ですが、アフリカで活動する日本人は、このあとも何人か登場するのですが、大企業でもベンチャーでも国際機関でもNGOでも女性がとっても多いんです。

TICAD Ⅵの「ジャパン・フェア」会場の「アフリカスキャン」のブースで出会った
澤田霞さんとスタッフのみなさん

ーアフリカスキャンではどんなビジネスを展開しているんですか?

鮫島さん、「キオスク」をご存じですよね。アフリカのどこにでもある、食品や雑貨を売っている小さなお店です。トタンや木の板で囲われた数坪に満たない質素な店舗。まさに日本の駅のキオスクと同じようなサイズです。キオスクというのは一般名称で、それぞれのお店は個人営業なのですが、アフリカスキャンでは現在、ケニア・ナイバシャ湖の周辺で、直営店とフランチャイズ店をとりまぜ12カ所で「ブルー・スプーン・キオスク」を経営しています。

ー小売店チェーンを経営。なんだかコンビニエンスストアみたいですね。物流や情報関連の大きなインフラがないと展開が難しそうですが。

インフラがない中でも、工夫しています。店頭の写真をご覧ください。鉄の枠に収まったタブレット端末が置いてあります。世界中どこでも買える製品です。

インターネットと接続したタブレット端末があれば、
質素なキオスクで精緻な情報管理が可能になる

このタブレット端末にPOS管理のアプリをインストールして、インターネットでつないでおけば、どのお店で何がどれだけ売れたのか、販売管理や在庫管理が簡単にできます。日本のコンビニエンスストアのような精緻な物流システムを導入するのは難しいですが、販売データや在庫データは、ナイバシャのオフィスで一括管理できますし、東京から見ることもできる。アフリカのようにインフラが未整備な地域こそ、ITのメリットを享受できるのです。

ーアフリカスキャンは流通業が本業なんですか?

いいえ。それぞれのキオスクで売り上げを立てるのは重要ですが、小売店経営はどちらかといえば私たちのビジネスの「きっかけ」づくりなんです。

「ブルー・スプーン・キオスク」では、体重、血圧測定ができる健康診断を定期的に行っています。お店を訪れた人は、商品を購入しなくても、どなたでも無料で自分の健康診断ができます。

ブルー・スプーン・キオスクの店頭で行った無料の健康診断を受ける近所の人々

なぜ、こんなサービスをしているかというと、ケニアでは、一般的な料理の多くは脂肪や糖分が多い傾向があり、多くの人が太り気味。私たちの調査では、ケニアのある地区では、肥満の指標となるBMIが25を超える人が41%にも達しています。

私たちは、キオスク店頭に健康測定機器を置き、無料の健康診断を実施して、みんなが自分の健康データを確かめられるようにしています。みなさん、自分の健康状態を知りたい欲求が強いようで、健診には数十人から多いときは数百人が集まります。ケニアにも公的・私的なヘルスケアサービスはありますが、年間所得3000ドルを切るBOP層の人々が自分の健康状態を気軽に把握することは難しい。このため、こういった手軽な健康診断に人気が集まるのです。

ー小売業を営みながら、住民に健康診断を無料で提供する。素晴しい試みですが、これだけだと持ち出す一方で、ビジネスではなく、社会貢献(CSR)で終わってしまうのでは?

そう思われるかもしれませんが、きっちりビジネスの一環として行っているサービスなんです。実は、アフリカスキャンは、2つの異なるお客さんに同時にサービスを展開しています。

1つ目のお客さんはケニアの村落部のBOP層です。この人たちに良いものを適正な価格で販売する小売りサービスと、無料で受けられる健康診断サービスを展開しています。

もう一つのお客さんはアフリカに進出を考えている企業や団体です。私たちが「ブルー・スプーン・キオスク」の小売りサービスや健康サービスを通じて集めたアフリカの一般市民の消費データや健康データは、アフリカでビジネスチャンスを探す企業にとって非常に貴重なマーケティングの材料になります。また、小売店に来るお客さん以外、例えば、ナイロビの一般消費者に対する市場調査なども行っています。

「高血圧の人が、一日にいくつ揚げドーナツを買ったか」
「どんな食品を買った人の体重が減ったか」
「この地区の人たちの肥満度はどのくらいか」
「いま、お菓子で一番人気のブランドは何か」
「ナイロビの中間層の生活は?」

私たちはキオスクに置かれたタブレット端末と健康測定機器、市場調査からこうした生の小売りデータ、健康データ、消費者データを得られます。このデータを元に、企業相手にマーケティングを行ったり、コンサルティングを行ったりする。場合によっては商品デザインを手掛けたり、「ブルー・スプーン・キオスク」でテストマーケティングを行ったりする。
これこそがアフリカスキャンのビジネスです。

* * *

アフリカスキャンのビジネスモデルは、ユニークだと自負しています。

ケニアのBOP層の人たちは、価格にとても敏感です。そこで、正価販売のキオスクで安心して買い物ができるようにしています。さらに、健康へのニーズをくみ取り、無料で各種健康診断サービスを提供しています。こうしたビジネスを通して、アフリカでビジネスを展開しようという企業には、アフリカの人たちの消費性向や健康状態といったマーケティングデータを提供できる。

アフリカでは、マーケティングデータを元に消費者ニーズに合わせた商品、サービスを展開し、その結果蓄積されたデータを高付加価値の商品として海外の企業に販売する。

成功の秘訣となるのは的確なITの活用です。
日本のスーパーやコンビニでは当たり前になったPOSの仕組みをタブレット端末とアプリとインターネットを活用して低コストで導入し、住民には競合により安い価格と健康を、企業にはマーケティングの参考となるデータを提供する。すでに食品や日用消費財、精密機械などのメーカーとのビジネスが進んでいるそうです。広報担当の戸次弥生さんに伺いました。

アフリカスキャンの広報担当、戸次弥生さん

ーどんな企業からの依頼があるんでしょうか?

たとえば、複合機メーカーのリコーから、キオスクにプリンターを置いて、絵本のプリントサービスが提供できないか、ニーズ調査を行いたいという問い合わせがありました。アフリカでは、BOP層向けの書店などが発展していないので、印刷物がなかなか流通しにくいのでは、という仮説をお持ちでした。ならば、プリンターをキオスクに設置して、印刷して販売する仕組みはできないだろうか、というお話です。

リコーは、現地での教育のニーズを調べて、「絵本」は識字など教育分野の課題解決に貢献ができるのではないか、とお考えでした。「ブルー・スプーン・キオスク」のお客さんは、食費に並んで教育にもお金をかけていることがわかっており、子供向けの書籍は潜在需要があります。絵本は相性が良いかもしれず、やってみましょうと提案しました。こうした取り組みにも柔軟に応えることが可能になっています

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