モンテネグロ上水道システム修復のための署名式が行われました。

2010年6月1日

「総選挙を控えたこの時期に支援を行うということは、いまの政権の後押しにつながらないか。」との記者からの質問に、ざわつく場内。どう回答しようかと思案にくれ、顔を見合わせながら、お互いにマイクを譲り合うモンテネグロ外務大臣とポドゴリツァ市長。そんな困った様子を見てほくそ笑む記者たち。

と、そこでさっとマイクに向かい「我々は、特定の政党を支援するために、わざわざ日本国民の税金を使っているのではない。ポドゴリツァ市の上水道は危機的な状況にあり、老朽化したポンプが壊れれば、何万人の市民が困ることになる。そうした事態を一刻も早く解決することが市民のために重要であり、政治的な思惑で支援が遅れるようなことはあってはならない。」と発言したとたん、記者たちは静まりかえり、質問した記者は恥ずかしそうにそそくさと帰り支度。

これを私が発言していれば格好がよかったのですが、発言したのは日本の角崎大使。大使にここまでがつんと言われてしまえば、記者たちも反論できず、また私もとても発言できるような雰囲気ではなく、そのまま記者会見は終了。と思ったら、大使の発言で気が大きくなったのか、先ほどまで譲り合っていた外務大臣が「日本国民はこれまでも多くの支援をしてくれた。いずれの支援も、モンテネグロ政府の政策に合ったものであり、政治的な観点からプロジェクトが決められたことはない。」と追い討ちをかける発言をし、無事に記者会見が終了しました。

これは5月13日に、モンテネグロで行われた一般無償資金協力「ポドゴリツァ市上水道システム緊急修復計画」の署名式の後に行われた記者会見の模様でした。とうの昔に耐用年数が過ぎているポンプをいまだに使用しているため、飲み水を各家庭に送り出す能力が低下しているだけではなく、いつポンプが壊れてもおかしくないという深刻な状態のモンテネグロの首都ポドゴリツァ市の上水道システムを修復するため、昨年JICAはその設計を行う調査を行いました。その結果、日本政府がポンプや関連機材を新しくするための無償資金5.96億円を供与することを決定し、ポドゴリツァ市において角崎大使とローチェン外務大臣との間で国際約束の文書、また私とムゴシャ・ポドゴリツァ市長との間で無償資金協力実施の方法を決めた贈与契約書を署名しました。

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贈与契約書に署名する筆者とムゴシャ・ポドゴリツァ市長

署名式の会場となったのは、市のはずれにある小さなゴリツァ山のふもとにある迎賓館です。ちなみに「ポドゴリツァ」という名前は、ゴリツァ山の下(ポド)という意味だそうです。この迎賓館の1階の大広間に30名近い新聞やテレビの記者が集まり、その前で大使と一緒に私もフラッシュを浴びながら署名しました。こんなに写真を撮っても、どうせ私の写真は使われないんだろうなと思いながらも、フラッシュを浴びるというのはなかなか気分がいいものです。その後、市長、大使に続き、私も事所員に作ってもらったモンテネグロ語のスピーチ原稿を、冷や汗をかきながら読みあげました。実はモンテネグロは3年前まではセルビアと一緒の国でしたので、モンテネグロ語といっても多少発音が違う言葉があるくらいで、基本的にはセルビア語と同じ言葉なのですが、独立国としてのプライドもあり、モンテネグロ語と呼ばれています。肝心なスピーチでは、ポドゴリツァ市民の生活の向上に日本の支援が貢献することを祈念するとともに、修復された上水道システムが長持ちするよう、ポドゴリツァ市が継続的な努力をすることを切望する旨を強調しました。

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モンテネグロ語でスピーチする筆者

ムゴシャ市長からは日本国民と日本政府、そしてJICAに感謝をするとともに、このプロジェクトにより市民の生活が安定し、国の発展につながることを期待し、また上水サービスを受けている市民は何万人もいることから、数多くの市民が日本国民に感謝することになるだろうという趣旨の挨拶がなされました。この場ではスピーチはしませんでしたが、署名式に先立って行われた会談で、外務大臣からも遠く離れた日本が人口わずか60数万人の小さなモンテネグロという国を支援してくれていることの意義は非常に大きい、このプロジェクトも含めたすべての協力は金額以上の価値があると思う、日本とモンテネグロの協力はまだ初期段階だけど、今後ますます協力関係を深めていきたいとの発言がありました。

モンテネグロ…聞きなれない国かもしれませんが、海を挟んでイタリアの向かいにある国で、そのアドリア海沿いの港町は、日本の有名なアニメの舞台になったこともあるそうです。日本に対する関心は高く、日本人に対してはとても好意的です。このプロジェクトにより、ポドゴリツァ市民の飲み水の危機的な状況が解決されるともに、ひとりでも多くのモンテネグロ国民が日本にますます関心を持ってくれるようになることを期待したいと思います。

バルカン事務所長 黒澤 啓