セルビア国「ニコラ・テスラ火力発電所排煙脱硫装置建設事業(円借款)」の署名式が行われました

2011年12月27日

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セルビア初の円借款プロジェクトが実施されるニコラ・テスラ火力発電所

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署名終了:左より角崎大使、黒澤所長、マルコヴィッチ・セルビア電力公社総裁、ジェーリッチ副首相

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緊張した式後、笑みが漏れる署名者:左より角崎大使、黒澤所長、ジェーリッチ副首相

11月24日、セルビア共和国の首都ベオグラードからほど近いオブレノバッツ区にて、セルビアで初の円借款プロジェクトの署名式が行われました。オブレノバッツ区はベオグラード中心部から30kmの場所にあり、セルビアで最大の規模を誇る、ニコラ・テスラA火力発電所がある地区です。このニコラ・テスラA火力発電所は、6つの発電設備で合計1,649MWの電気を発電することができ、セルビア国内で使われる電気の実に4分の1を生産する、重要な役割を果たしています。発電所の名前に、セルビアで最も有名な科学者・発明家であるニコラ・テスラの名前が付けられていることからも、この発電所がセルビアにとって、最も重要な施設の1つであることが分かります。

セルビアの発電所は、このニコラ・テスラ火力発電所をはじめ、社会主義の旧ユーゴスラビア時代に作られたものが多く、1960〜1970年代に運転を開始してから、30年以上も使われ続けています。しかも、セルビアは1990年代に、旧ユーゴスラビア地域で起こった紛争の影響で、NATOから空爆を受けたり、国際社会から経済制裁を受けたりしたことにより、国内産業の発展が滞る「空白の10年」を抱えていました。2000年にミロシェビッチ元大統領による独裁政権が倒れ、国際社会に復帰してからは、それまで行われていなかった旧式の発電設備の更新が進められ、発電の効率を良くするための努力を続けてきました。しかし、発電所から排出される煙に含まれる大気汚染物質を取り除く環境対策は、まだ行われていません。

発電所の煙突からは、ボイラーで石炭を燃やした後の煙が排出されていますが、この煙には一般的には亜硫酸ガスとよばれる、二酸化硫黄(SO2)という有害成分が含まれており、発電所周辺に住む人々の健康に被害を与えています。このため、日本政府はセルビアに対する初の円借款プロジェクトとして、この発電所から排出される煙から二酸化硫黄を取り除くための装置を設置する支援を行うことを決定し、今年3月、セルビアのタディッチ大統領が来日した際にこのことを発表しました。その直後、日本は東日本大震災に見舞われたことから、プロジェクトの準備に長い時間が掛かりましたが、この間、セルビアは日本の状況に理解を示し、震災で日本が大変な時であるにもかかわらず、予定通りプロジェクトを実施してくれることに多大な感謝をすると共に、震災からの復興のための支援金やたくさんの温かいメッセージを送ってくれました。そしてようやく、今回、プロジェクトを開始するための合意文書の署名式を行うことができたのです。いよいよ本格的なプロジェクトの始まりです。

署名式では、まず、日本国とセルビア国の間でこのプロジェクトを行うことに合意することを記した交換文書を、角崎大使とジェーリッチ副首相の間で交わしました。続いて、このプロジェクトに必要な資金を有償資金協力にて提供することを約束する契約書に、JICAバルカン事務所の黒澤所長とセルビア電力公社のマルコヴィッチ総裁が署名を行いました。セルビアで初の円借款・有償資金協力の実現に、多くの報道陣が集まり、ジェーリッチ副首相が日本語で語った「日本のみなさん、ありがとう!」というフレーズと共に、その日のニュースとして各テレビ局で放送されました。署名式後の祝賀会では、寿司も登場し、親日ムードを盛り上げます。参列者は皆、セルビア式(フォークで刺して、お皿になみなみと注がれた醤油にたっぷり浸して食べる)で、美味しそうにいただいていました。

プロジェクトはまだ始まったばかりです。現在、ニコラ・テスラA発電所からは、欧州連合(EU)が定める基準の10倍にもおよぶ二酸化硫黄が排出されています。EU加盟を目指すセルビアは、現在、国内でさまざまな改革を進めていますが、環境対策はセルビアが解決すべき最も重要な課題の1つです。2016年から実施されるEUの新しい環境基準に適応するために、セルビアはこのプロジェクトを推進し、二酸化硫黄の排出量を下げることが義務付けられています。大規模な工事をともなうこのプロジェクトが完成するまでには7年もの年月が掛かりますが、この間、JICAはセルビア電力公社を支援し、プロジェクトが円滑に進められるよう、協力を続けていきます。また、日本はセルビアの将来におけるEU加盟を、これからも支援していきます。

バルカン事務所企画調査員
斎藤由美子