「おとぎ話の国」から「力の剥奪」まで 斉藤 栄司 元隊員

2013年3月11日

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斎藤 栄司 (山形県出身)

青年海外協力隊員 職種:自動車整備

派遣期間:1983.8〜1986.5(昭和58年度1次隊)

配属機関:ランガマティー職業訓練センター(労働省 雇用促進事務局)

1983年8月にダッカ空港に着き、迎えに来てもらった加藤調整員と一緒にJICA事務所に向かいました。道路の脇の水辺では水牛が泳いでいました。その水牛の背中に乗って子供たちが遊んでいました。まるでおとぎ話の世界に来たような気持ちになったことを覚えています。

私の配属先はランガマティー職業訓練センター(Rangamati TTC)。労働省管轄の職業訓練施設。生徒たちは15歳から20歳くらいまで。そこで自動車整備の実技指導をするのが私の役割でした。

大きな特徴はその場所でした。ランガマティーはチッタゴンから東に80kmほど入ったバングラデシュでは珍しい山岳地域。カプタイ湖という湖がありました。そこに住む人たちはチャクマ、マルマ、トリプラなどの少数民族の人たち。日本人と同じような顔をしたモンゴル系の人たちで一見とてものどかな地域でした。

この地域にバングラデシュ政府と少数民族の対立があることを知るにはさほど時間がかかりませんでした。シャンティバイニという反政府グループが組織されていましたが活動の行き詰まりから反政府活動をやめると宣言をした人たちが町のスタジアムに大勢集まりセレモニーが行われるのを見ることがありました。

生徒はベンガル人と少数民族が混じったクラス、反政府活動をやめると宣言した少数民族の生徒たちのクラス、反政府活動の取締りをしている警察や軍の人たちのクラスなど。

教えた内容もさまざまでした。不完全なベンガル語を黒板に書き、生徒たちに語学指導してもらいながらすすめた自動車整備の授業。警察や軍のベテラン整備士たちに経験のなかった船外機整備の指導をした時は、ヤマハから送ってもらった英語の整備マニュアルを使用し彼らの苦手な理論で乗り切ったことも。任期ギリギリまで担当した元反政府組織に所属していた少数民族の生徒たちのための自動車運転免許を取得させるコースでは、ワンボックスカーに生徒全員を乗せ路上での運転練習。歩いている人たちに向かって進んでしまう生徒たちのハンドルを横から直しながらどなりちらしていました。

平然とバスの屋根の上に乗る人たち。リキシャのハンドルとサドルの上に板を敷いて眠るリキシャ引き。橋の欄干に横になって昼寝をする人。どしゃ降りの雨の中、道をころがりながら物乞いをする人など。私にとって初めての外国だったバングラデシュでは想定外の人々の暮らしぶりに圧倒されたことも多くありました。

帰国以来、バングラデシュの問題と日本の問題の共通性について考えていました。10年ほどたった頃でしょうか、ジョン・フリードマン著の「市民・政府・NGO」の中で「貧困とは力の剥奪された状態」とありました。バングラデシュの問題と日本の問題が一気につながった気がしました。貧困ということばを身近に考える時期があったことは貴重だったと思っています。多くの学びの芽を養ってくれたバングラデシュに心より感謝しています。