国内最大級のハリプール火力発電所−「ニッポンに憧れた」現場責任者のナズムールさん−

2013年8月19日

氏名:ナズムール・アラム

役職:プロジェクト・ディレクター、Electricity Generation Company of Bangladesh Ltd.

ダッカ郊外のナラヤンガンジ市で、CO2排出量を抑え、熱効率性を高めた「新ハリプール火力発電」の建設が日本の円借款で進んでいる。単独の火力発電所としては国内最大級の412メガワット。ガスと水蒸気を利用する「コンバインドサイクル発電所」で、ガスタービンは三菱重工、蒸気タービンは富士電機など要となる機材に日本の技術を活用し、熱効率はこれまでの国内ガス火力発電所と比べ2倍以上の約56%となる。技術的にも最先端の発電所だ。

建設現場では現在、工事が大詰めを迎えている。EPC契約を受注した丸紅や本邦メーカーからの日本人、外国のコンサルタントや建設業者など多国籍な1,000人以上が働く現場を指揮するのが、プロジェクトディレクターであるバングラデシュ電力公社のナズムール・アラムさん(50)。穏やかな笑顔を絶やさないエンジニアだ。

「コンニチハ」。面談の終盤になって、ナズムールさんが少し照れながら日本語を話し始めた。聞けば1986年ごろ、日本大使館が開いた教室で日本語を勉強したことがあった、という。「日本はすべてが進んだ国、という印象を持っていました。だから日本語を学び、日本を知りたいと思いました。言葉は忘れてしまいましたが、こうして、憧れた日本と一緒に仕事ができることはとてもうれしい」と、ナズムールさんは言う。

青年のころから「自分の国に貢献できる人間になりたい」と思ってきた。最初は人命を救う医師になりたいと考えたが、社会や生活の基盤を支える技術者にも興味を持ち、エンジニアの道へ。「技術を的確に生かすためには、マネジメントの勉強も必要だ」と考え、MBAも取得した。「人間の成長に終わりはないのです。プロフェッショナルであるためには、常に新しい技術や知識を会得していく努力が必要です」。

「学ぶ心」は、現場のマネジメントにも生かされている。ナズムールさんは「どんな人からも学ぶべきところがある」という謙虚な気持ちを大切にしているという。日本人であろうと、バングラデシュ人であろうと、エンジニアであろうとワーカーであろうと、すべての人の声に耳を傾ける。そんなコミュニケーションを重視するマネジメントの姿勢が、ナズムールさんを支える同僚にも共有され、多国籍の関係者との対話を円滑にしてきた。

途上国では、工事が予定通りに進むこと自体が難しい場合が多い。が、ハリプールの新発電所建設の工期はほぼ予定通り。ナズムールさんは「JICAの担当者とは常に目標や問題意識を共有することができ、綿密に連絡をとってきました。JICAとは、資金援助を受けるだけではなく、一緒に事業を作り上げてきた、という実感があります」と、話す。

この現場でひときわユニークなのが「ご意見箱」の設置だ。建設現場の事務所入り口には、ベニヤ板で作ったポストが設置されている。現場で働くだれもが、不満や意見があればここへ入れることができる。ポストには鍵がかかっており、投函者やその内容は秘密にされる。これまでに数件の利用があり、「問題は無事解決しました」とナズムールさんは言う。こんな日々の努力が、現場の風通しをよくしているのかもしれない。

バングラデシュのピーク時電力需要は7,500メガワットと言われる。そのうち供給できているのは約6,000メガワットで、国内では停電が恒常的に発生している。JICAはこれまで、バングラデシュの電力セクターに日本のODAで2,300億円の援助を実施し、国内電力供給量の約2割に当たる1,170メガワットの電力供給に寄与してきた。

しかし、この国の電化率は51%にとどまり、一人当たりの電力消費量は毎時275キロワットで、日本の約30分の1だ。今後国が発展するためには、電化率を高め、電力を安定的に供給すること、さらに代替エネルギーの開発・普及が不可欠となっている。電力セクターのマスタープランによると、電力需要は2020年には18,000メガワット、2030年には37,000メガワットと大きく伸びる見込みだ。

(了)

【画像】

新ハリプール火力発電所の水蒸気タービン部分

【画像】

ナズムールさん(左から2番目)と同僚エンジニアたち

【画像】

発電所の「心臓部」、制御室

【画像】

現場事務所前にある「ご意見箱」