安全な水をチッタゴンに(1)−地上に地下に、奔走するニッポンの水道マンたち−

2013年11月6日

チッタゴン上下水道公社無収水削減推進プロジェクト/カルナフリ上水道整備事業

土に埋もれた水道メーター

バングラデシュ第二の都市、チッタゴン市内の住宅地。「JICA」のロゴが入ったジャケットを着たチッタゴン上下水道公社の職員が、水道メーターの設置状況を調べるため、一軒一軒を訪ね歩いている。ある家では鶏小屋に案内された。群がるニワトリたちをかきわけて地面を素手で掘ると、そこには土にまみれた水道メーターが埋もれていた。

チッタゴン市は人口約270万人。国内最大の工業都市で縫製等の日本企業の進出も進んでいるが、インフラ整備、特に水不足は深刻で、給水率は人口の約50%にとどまっている。1960年代に創設されたという水道管は老朽化しており、日本の円借款で現在、浄水場と送水管などの整備が進められている(カルナフリ上水道整備事業)。ハード面の整備と同時に、公社の経営改善の重要な課題とされるのが「無収水対策」だ。

「無収水」とは、浄水場から送水されたにもかかわらず、料金が支払われない水のことを指す。主に配水管の老朽化などによる漏水や、盗水、水道メーターの未設置などが原因だ。この無収水率が低いほど、水道事業が効率的に運営されていることになり、例えば東京都は4%前後、ロンドンは約25%、バンコクは約30%などとされる。

チッタゴンの無収水率は地区によっては40%を超える。JICAは、この無収水率を減らすための技術協力「チッタゴン上下水道公社無収水削減推進プロジェクト」を2009年から2014年の計画で実施している。

「水道公社の『お客』がどこにいるのか、水道管がどこにあるのか、作業はそれを突き止めることから始まりました」。同プロジェクトの専門家として公社に派遣されている廣山和臣さん(62)=エヌジェーエス・コンサルタンツ=は語る。

1960年代に創設されたチッタゴンの水道網は、廣山さんによると、25年以上改修事業が実施されていなかった。配水網がどこにどう張り巡らされているのかほとんど分からない。水道利用者も住所や氏名が判っても、顧客地図が整備されておらず、検針状況や徴収状況も正確さに乏しい。無収水対策をしようにも、「出発点」がないのだ。

「しらみつぶししかない」。廣山さんは、プロジェクト対象地域の高解像度衛星画像を導入し、利用者の家を探し当て一軒一軒訪ねることにした。対象世帯は約27,000。2人1組で一軒一軒を訪ね、水道メーターの設置場所や作動状況を確認する。水道料金が支払われていないなら注意を促す、あるいは接続を切る。一方で、水道メーターがあるのに「水がほとんど来ていない」と苦情を言われることもあった。

2009年から現在までの4年余りで、対象世帯のうち約9割の調査が終わった。パイロット地域として集中的に取り組んだクルシ地区(約170世帯)では、調査前の無収水率55%が、調査に基づきメーターの入れ替えや漏水防止工事などをしたところ、17%にまで下がった。「効果が見えたことで、職員たちに作業の意味が伝わったと思う」と、廣山さんは言う。今後、この作業は、ノウハウを得た職員たちにより、更なる作業効率でプロジェクト対象地域を超えてチッタゴン市全体に広がっていく。

文字通り、地を這うような根気のいる作業。しかし、この作業を本当に生かすためには、インフラ整備事業が不可欠だ。廣山さんは言う。「私たちの技術協力プロジェクトが『下ごしらえ』をして、円借款の上水道整備事業による給水能力の改善を支える。車の両輪のような関係で、どちらが欠けても水道公社の経営改善にはつながらない。地道な技術協力と壮大な円借款プロジェクトのタイアップ、迫力を感じるおもしろい仕事です」

「その2」に続く

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ニワトリ小屋の地面に埋もれていた水道メーター

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チッタゴン上下水道公社のスタッフたちとともに水道メーターの設置状況を調べる廣山さん(左)