安全な水をチッタゴンに(2)−地上に地下に、奔走するニッポンの水道マンたち−

2013年11月11日

チッタゴン上下水道公社無収水削減推進プロジェクト/カルナフリ上水道整備事業

手探りの大工事

1日、数メートル。

車両と人と出店とでごった返すチッタゴンの道路を、少しずつ少しずつ掘り起こしては水道管を埋めていく。円借款で実施されている「カルナフリ上水道事業」は、チッタゴン市内に総延長76キロに及ぶ送配水管を敷設する事業。2012年に着工し、2014年までに浄水場を含む送配水管網を整備する。

しかし、無収水対策プロジェクトで地上の地図がなかったように、地下の地図も信頼できる手がかりがない。

ガス管や古い水道管、電話線などが勝手に埋められていて、「まさに、掘ってみないと何が出てくるか分からない。チッタゴンの地下はイギリス統治時代以来無秩序にさまざまな管や線が張り巡らされています」。丸紅とクボタ工建のジョイントベンチャーとして事業を担う白井朗プロジェクトマネジャーは言う。埋設されている線や管を破壊しないように、人力で掘る必要があるときには、1日数メートルしか進まない場合もあるという。

工事は15から30カ所以上で同時に進行している。常時500人前後の人々が工事に携わっているという。交通の激しい場所では、片側通行で大渋滞が発生したり、通行車同士がにらみ合って動かなかったり、交通ルールを守らない車により、工事をしている人たちに事故の危険が及んだりすることもある。そのため、一部渋滞地域は夜間工事にシフトした。それだけではない。雨が降ると工事は止まる。ホルタル(ゼネスト)の呼びかけがあれば工事は止まる。特に選挙が実施される予定の今年は、ホルタルが頻繁に実施されている。

総延長76キロの途中では、日本にしかない「水管橋」という工法も採り入れられている。水管橋は、既存の橋などに送水管を付設して川を渡すもので、川の中での工事も必要となる。橋の設計、干満、川底の土質など工事の実施にはさまざまな情報が必要となるが、現場で一つひとつ調べなければ分からない。白井さんは「日本でも難しい工事で、私たちが現場で手取り足取り教えながらやっていくしかない。うまくいくかどうか、やってみないと分からない工事です」と、話す。

また、鉄道の線路がある部分では、地下を掘ることで地上の線路等が崩落しないよう、地盤を固めてから工事をする必要がある。そのための薬剤を地面に注入するのだが、この薬剤の輸入・通関に時間がかるのも苦労の一つだという。

「8割以上の作業員が、日々地道な仕事に取り組んでいるんです」。白井さんは強調する。情報のない地下を掘り進む作業は、ときに人力に頼るしかない手探りの仕事なのだ。

2021年を見据えて

JICAは円借款で「カルナフリ上水道整備事業」のフェーズ2にも取り組んでいる。同事業では、2021年までにさらに浄水場や送配水施設の整備を手掛け、一日の給水量を現在の約22万㎥/日から、約51万㎥/日へと増強する。無収水率は23%にまで下げ、水道普及率は市全体で85%にまで引き上げたい、としている。

「JICAのこのプロジェクトは、私たちにとって生命線です」。チッタゴン上下水道公社のファズルッラー総裁は言う。「このフェーズ2が完成すると、給水量の6割余りをまかなうことになります」。総裁は大学卒業以来、40年以上、チッタゴンの「上下水道」一筋に働いてきた。「JICAがプロジェクトを手掛けるまで、30年近い間、チッタゴンの水道整備のプロジェクトは何もなかったんです」と、言う。

インフラ整備だけではなく、経営改善のための無収水削減推進プロジェクトにも期待をかける。「職員が現場に出ていって水道利用者に直接、支払いなどを働きかけるという作業は大変なことです。でもこの事業を見ていると、それが市民を説得し、動かす力になることがよく分かります。職員も利用者である市民も、少しずつ変化していっていると思います」

一方で、廣山さんは、チッタゴン上下水道公社内で核となる若手職員を育て、維持管理に着目したシステムを構築したい、と話す。「フェーズ2が完成し、新たに286千m3/日の供給が確保される予定である2021年にチッタゴンの水道インフラの整備は一つの節目を迎えます。そのときに結果を出せる体制となっているかどうかが、勝負です。2021年を見据えて人を育てていきたいと考えています」

(了)

【画像】

チッタゴンの主要道でも水道管敷設工事が行われている

【画像】

日本でも難しい「水管橋」の工事現場

【画像】

線路付近では、地面を固める薬剤を注入してから工事を行う

【画像】

工事を指導する白井さんと、口径1.2メートルの大口径送水管。これを埋設して供給水量を増やす

【画像】

チッタゴン上下水道公社のファズルッラー総裁