「できないって言うなー!」 笑顔と涙で築く信頼(1)−ジョソール青年海外協力隊員 奮闘記−

2013年11月29日

青年海外協力隊員は、ボランティアとして、プロジェクトの現場に飛び込む。若さゆえに経験は少なく、未熟かもしれない。けれど彼らは援助の最先端で、人と人との結び目を作る。助けたり、助けられたり。教えたり、教えられたり。隊員たちの奮闘のほんの一コマを、ジョソールの現場から伝える。

県病院で「5S」に挑戦 ——高橋理恵さん

職場を整理整頓する。それだけのことが、人の働き方まで変えてゆく。青年海外協力隊員の高橋理恵さん(33)は、バングラデシュ西部・ジョソールの県病院で薬局などの「5S」活動に取り組みながら、そのことを目の当たりにした。
5S活動とは、職場環境の維持・管理についてまとめた5つのスローガン。「整理」「整頓」「清潔」「清掃」「しつけ」の5つのSを実行することを指す。高橋さんは、JICAの「母性保護サービス強化プロジェクト(フェーズ2)」が促進する病院改善活動を支援する為、ジョソール県保健局に派遣され、病院の職場環境の向上を中心に活動している。
「使用済みの針など危険物と、他の一般ごみを分けて捨てること。まずはそこから始めました」と、高橋さんは言う。病院は常に人手不足だ。県病院は250床の大型病院だが、看護師の数は38床に2人程度、薬局もてんてこ舞い。ごみの廃棄や整理整頓にまで気を回す余裕がない。高橋さんが職場の整理整頓を呼びかけたときも「そんなの絶対無理だよ」と一笑に付された。
「できないって言うなー」。高橋さんは、持前の明るい笑顔で、しかし真剣に職場のみんなにそう言い続けた。それは、くじけそうになる自分への励ましでもあった。
ずっと看護師に憧れていたという高橋さんは、日本では高度な専門性を求められる脳外科に勤めていた。バングラデシュの医療の現状を目の当たりにし、看護技術で教えたいことはたくさんあった。でも、5Sに取り組んだ。5Sの目的は職場環境を整理することで、仕事の効率化やモラルの向上を図ることだ。実現すれば、看護師が患者に接する時間が増え、より深いケアが可能になる。医療技術を直接教えることではなくても、この病院の看護師たちが今何よりも必要とする「時間」を生み出すことになる。「患者さんにつながるのであればどんなことでも意味がある」。高橋さんはそう考えた。
まずは目に見えるモデルを作ることだ。高橋さんは、モデル病棟と、たくさんの人が利用する薬局・倉庫で5Sを実施することにした。新しいものを買う予算は、ない。今あるものを再利用するしかなかった。薬局では、薬を種類ごとにきちんと並べ、それぞれの薬の山にラベルを作成し、間違えないようにした。ラベルは薬の空箱を利用した。病棟用には、空き箱でごみ箱を作った。危険物用には赤い紙を貼り、一般ごみ用には黒い紙を貼った。なぜ、こうすることが必要なのか。同僚たちに説明しながら、コツコツと作業をした。
勤続23年の薬剤師、ラタン・クマール・シャカールさん(45)は、高橋さんの姿に刺激された。やがて毎日30分近く早く出勤し、整理整頓を始めるようになった。「薬局はひどい状態だった。高橋さんが取り組みを始め、自分たちで変えなくては、という気持ちになった」と言う。
薬局と倉庫、モデル病棟は今、医療品や薬品が整然と並び、ゴミも分別されている。たしかに変化が起きたのは広い病院のほんの一部だが、そこには高橋さんと現場の同僚たちの「仕事」がきちんと息づいていた。

「その2」に続く

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整理整頓された薬局で語り合う高橋さん(左)とシャカールさん

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薬局の窓口。手前に並んだ薬のビンは、以前はぐちゃぐちゃに置いてあっただけだという

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モデル病棟に置かれた分別用のごみ箱。色分けされているので一目で分かる

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モデル病棟では、薬や医療品もきちんと管理されていた

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ジョソールの県病院の入院病棟の様子