村人と行政を結ぶ「リンクモデル」 草の根で支えるひとたち

2014年2月19日

「プロジェクトが夫です」−数少ない女性ユニオン開発官 サビナ・ヤスミンさん

コミラ県デビッダワ郡の小学校。ふだんは子供たちでにぎやかな教室に、今日は大人たち20人余りが集まった。同郡カリカプール村の村落委員会だ。農業や家畜、インフラ関係の省庁のユニオン職員たちが、村落委員たちと一緒に座る。

「先日、この村落委員会を通じて、牛、アヒル、ニワトリなどに病気を防ぐワクチンのサービスをした。そのことを報告する」。「雨季になったので植林をしたいが、どんな木が適しているか」。村落委員からの質問や意見に、担当の職員がその場で答えたり、状況を報告したりしていく。

バングラデシュでは、国のサービスが農村の人々のもとに届きにくい現状が見られる。JICAが2000年から技術協力プロジェクトとして導入に取り組む「リンクモデル」は、この問題を解決するため、ユニオンや郡の行政サービスと住民をつなぐ仕組みをつくり上げ、人々の声を草の根から吸い上げることを目的とする。研究段階から含めれば、JICAが農村の人々とともに、30年近くも試行錯誤を繰り返してきた農村開発の一つの手法だ。

リンクモデルの基本要素は3つ。全国に4,500余りある最少行政単位「ユニオン」に設けられるユニオン評議委員会(UCC)、行政組織ではないが人口1,000弱程度で構成される「村」を主体とした村落委員会(GC)、その二つをつなぐユニオン開発官(UDO)の設置だ。リンクモデルプロジェクトで約200のユニオンに設置されたユニオン評議委員会は、現在、ユニオン開発調整委員会(UDCC)に改名され、全国すべてのユニオンに設置されるよう制度化された。村落委員会とユニオン開発官を含め3点が揃うプロジェクト対象ユニオンは4ユニオンほどだったのが、現在は全国200ユニオンで展開している。

デビッダワ郡は、リンクモデルの3要素を揃え、活発に村落委員会が活動している地域のひとつだ。ユニオン評議会の会議は20回以上開かれている。さらに、ここには全国でも珍しい女性のユニオン開発官が活躍している。サビナ・ヤスミンさん(35)だ。

デビッダワ郡のあるコミラ県でリンクモデル普及の活動をしている青年海外協力隊の山岡麻美さん(30)によると、女性の開発官は全国で15人ほどしかいない。男性中心になりがちな政治や行政の世界で、女性が活躍することは難しい。女性ユニオン開発官の数の少なさが、それを物語っている。

サビナさんは2011年にコミラ県のユニオン開発官になった。それまでも、このリンクモデルを普及する「行政と住民のエンパワメントを通じた参加型農村開発プロジェクト(Participatory Rural Development Project・PRDP)」にリサーチアシスタントとして現場で携わっていたため、ユニオン開発官の役割をよく理解していた。

「初めてこのプロジェクトの採用面接に行ったとき、私はサリーを着ていました。すると、こう聞かれたのです。『女性が男性のように働く姿をみて嫌みを言われるかもしれないが、覚悟はあるか』。私は、気にしません、と答えました」

サビナさんが必死だったのには理由がある。サビナさんの夫は2001年に運転手としてサウジアラビアに出稼ぎに出たが、出先で事故にあってしまった。夫は足が不自由になり、仕送りも途絶えた。サビナさん自身が働いて2人の子供たちの養育費や生活費を稼がなくてはならなかった。勤務前に朝食と昼食を作り、勤務後に夕食を作り、洗濯をする。頼る人がいないことが、かえってサビナさんを強くした。「仕事は私の家族も、私自身の心も支えてくれた。このプロジェクトが私の夫みたいなものです。誇りに思います」

サビナさんがユニオン開発官として働いて実感するのは、男性と女性に能力の差はないということだ。バングラデシュの男性たちの情報交換の場は主に路上の「茶屋」だ。お茶を飲みながら雑談をし、そこで情報や意見のやりとりが行われる。女性はそこに混ざることはできない。「でも、村を回って女性たちに話を聞くと、実にいろいろな意見を持っています。能力には差はないと思っていますし、女性のユニオン開発官がそれを引き出すことができればと思っています」

サビナさんは今、「バイクが欲しい」と考えている。バイクに乗ってさっそうと村々を駆け回りたい。まゆをひそめる人がいても構わないという。「一生懸命に働き、自信を持って生きることで、私自身が他の人たちの手本となりたいのです」。ユニオン開発官という職業を超えて、サビナさんは自立した女性のモデルになりつつある。

「継続が力」リーダーシップのある郡長から信頼されて−青年海外協力隊員 山本恭平さん

地図にびっしりと貼られた赤、黄、緑の小さなシール。「地域ごとに地下水のヒ素を検査した結果です」。ジョソール県ジゴルガチャ郡でリンクモデルの普及に取り組む青年海外協力隊員の山本恭平さん(27)は言う。

同郡は、バングラデシュの中でも、検出されるヒ素の濃度が高く、深刻な問題となっている地域だ。同郡では、ユニオン開発調整委員会を中心に、水・井戸に関連する保健や土木関係の役所、NGOの「アジア砒素ネットワーク」などが加わり、省庁横断的にヒ素問題に取り組もうとしている。タテ割になりがちな行政の対応が、「リンクモデル」で、関係者の横のつながりを構成できた好例だ、と山本さんは指摘する。

山本さんは、ダッカのBRAC大学に留学。開発学を学んでいたが、現在は休学して農村開発の「現場」で活動している。ジコルガチャ郡にある11のユニオンで、ユニオン開発調整員会の会議を規程通り2カ月に1度開くよう支援することが、彼の仕事だ。

「2カ月に1度」の決まりはあっても、なかなかそうはいかない。なかには3〜4カ月に1度という頻度の郡もあるが、多くは1回開くとその後はうやむやになってしまう。草の根の意識改革も必要だが、新しい仕組みを根付かせるには、強力なリーダーシップも欠かせない。山本さんは、同郡のアズムル・ハク郡長のもとにも熱心に通い、会議を定期的に開くことの大切さを説いた。

中央政府から派遣されている郡長の一言は影響力が大きい。山本さんは、たくみにベンガル語を使うだけでなく、持前の穏やかな笑顔でコミュニケーションを深めていった。

「私はさまざまな手段を使って、行政機関と人々の距離を縮めたいと思っています。その点からも、この仕組みの有効性や会議を定期的に開くことの重要さをよく認識しています」と、ハク郡長は言う。「私たちと同じ言葉を話す山本さんの存在は、実に大きい。信頼しています」。紅茶をすすり、苦手な甘い菓子をつつき、役人たちと何時間でも語り合う。山本さんのそんな「バングラデシュ流」交際術がリンクモデルの一端を支えている。

(了)

【画像】

デビッダワ郡カリカプール村の村落委員会の様子。教室を借りて開かれている=コミラ県デビッダワ郡で

【画像】

村落委員会の話し合いで出来上がった学校の校庭。子供たちが安全に遊ぶことができる=コミラ県デビッダワ郡で

【画像】

村落委員会で話をする女性開発官のヤスミンさん(左)と、青年海外協力隊の山岡さん=コミラ県デビッダワ郡で

【画像】

数少ない女性の開発官、サビナ・ヤスミンさん=コミラ県デビッダワ郡で

【画像】

笑顔で語り合うジゴルガチャ郡のハク郡長(左)と、青年海外協力隊の山本さん=ジョソール県ジゴルガチャ郡で

【画像】

ヒ素の検査結果を色別に示した地図を説明する山本さん=ジョソール県ジゴルガチャ郡で